ヤマハC1Xのタッチウエイトマネジメント

ヤマハC1X
ヤマハのグランドピアノC1Xの「タッチが重い(鍵盤が重い)ので
軽く(標準的な重さに)して欲しい」という依頼がありアクションをお預かりしました。
鍵盤が重いので一曲弾ききるのも疲れてしまい大仕事だそうです。
平成26年納品の新しいピアノで製造番号は639万台です。

 

調律作業時に音出しするような弾き方だとさほど重さは感じませんでしたが
椅子に座って曲を弾くと確かに鍵盤が重いような印象を受けます。
ランダムにBWを計ってみるとバラツキはあるものの
白鍵ではBW38gの鍵盤も多く、BWはさほど重くありません。
白鍵に比べ黒鍵BWは全体に重めでした。
それとレペティションスプリングが意図的に弱くされていて
ほとんど効いてないキーも多数あります。

 

除湿器
ちょうど梅雨時期という事もありフレンジのスティックも予想していましたが
除湿器とエアコンで除湿なさっていてスティックはありません。

 

ここからは中村式タッチウエイトマネジメントで分析、調整していきます。

まずHSWの現状をチェックしました。
HSWスマートチャート
指標8から指標9付近でバラツキはありますが、HSWは思ったほど重くありませんでした。
HSWは無理に下げずに指標8.5でバラツキを揃える事にします。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナル状態のサンプル音の平衡等式を使って現状を調べます。
BWは白鍵は38g付近で問題ありません。黒鍵は42g近辺で若干重いようです。
HSWも指標8から指標9くらいで別段重い訳ではありません。
Fは低音セクションで最大17.5と大きいです。
SRは5.9から6.4と若干高め。
FWは低音はシーリング値超えで、中音と高音はシーリング値を下回っています。

 

C2(16Key)を三要素関連票で確認すると
HSWが指標9で、SRが6.0の時
FWシーリング値マイナス3gを達成するには
BWは45gになるとあります。
このことからC2キーは
鍵盤鉛を多く入れているか或は外側に寄せて
BW38gにしているということになります。

 

作業の方向性としては
・SRが全体に高いので下げる
・FWをシーリング値マイナス3gを目標に下げる
・HSWは指標8.5でバラツキなく揃える
・Fが大きいので出来る限り小さくする
・BWは標準的な重さ38gに設定

これで進めていくことにします。

 

C#2の事前シミュレーション
低音黒鍵C#2(17key)の平衡等式を利用しての事前シミュレーション。
HSW12.1g(指標9.5)を11.5g(指標8.5)まで0.6g減したとして
SRが6.4なのでBWは約4g小さくなると仮定します。

バランスパンチングの半カットでSRが0.4下がるとして
HSWが11.5gなのでBWは約5g軽くなります。
さらにウィペンヒールにシムを挿入しSRをさらに0.4下げ
BWがさらに5gほど軽くなります。

最後に軽くなり過ぎたBWを元に戻すに際し
鍵盤鉛調整を行いFWは43.3gから34.2gになり
FWシーリング値マイナス3gを達成出来そうです。

あとは大き過ぎるFを下げれば
DWが軽くなりUWは増えて弾きやすくなると思います。

 

C2の事前シミュレーション
低音白鍵C2(16key)の平衡等式を利用しての事前シミュレーション。

HSW11.9g(指標9)を11.6g(指標8.5)まで0.3g減したとして
SRが6.0なのでBWは約2g小さくなると仮定。

バランスパンチングの半カットでSRが0.4下がるとして
HSWが11.6gなのでBWは約5g軽くなります。
黒鍵と違い白鍵はSR一段階下げにします。

最後に軽くなり過ぎたBWを元に戻すにあたり
鍵盤鉛調整を行いFWは41.3gから34.5gになり
こちらも黒鍵同様FWシーリング値マイナス3gを達成出来ました。

白鍵も大き過ぎるFを下げれば
DWが軽くなりUWは大きくなります。

 

FW比較計算表
慣性モーメントを下げつつ目標FWとなる鍵盤鉛位置をシミュレーションします。
外側の14mmの鍵盤鉛を抜いて、あらたに内側に14mmの鉛を入れる効率的作業とします。

 

BWと慣性モーメント
BWは38gを維持で、慣性モーメントは8.7パーセント小さくなるという結果が得られました。
BWが38gと元の重さと変わりませんが、FWがシーリング値マイナス3gになるので
実際に弾いた感じは大分軽快になるのではないかと思います。

 

ローラーの状態
納品から4年ほどの新しいピアノですが
シャンクローラーには黒鉛がだいぶ付着しており
これはFを大きくする要因のひとつなので出来る限り落として
PTFEパウダーをブラシ掛けします。

顧客がある程度除湿をしている事もあり
フレンジトルクのほとんどは3gですが
一部4g、5gがあるので3gで揃えます。

鍵盤前後ブッシングは丁度良い状態でしたが
バランスホールはかなりきついので要調整です。
バランスホールの汚れも落とし
前後キーピンも磨き直します。

 

低音の鍵盤鉛
低音はほぼ全域で鍵盤鉛が4つ入ってました。
最低音部はいいとして、少し多い印象です。

 

 

HSWの減量
HSWの重いハンマーは減量します。

 

HSWの増量
HSWの軽いハンマーは増量します。

 

ヒールにシムを挿入
ヒールにはシムを入れます。
SRを下げる方向なのでジャック側に挿入します。

 

鍵盤鉛調整
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行います。
標準的な重さ、BW38gになるよう位置決めします。

 

鍵盤鉛調整後
新たな鍵盤鉛の配置です。
上の黒鍵では外側の14mmの鉛を抜いて内側に2サイズ小さい10mmの鉛一つを追加。
下の白鍵も外側の14mmの鉛を抜いて、同サイズの鉛が内側に入る格好になりました。
鍵盤鉛を内側に寄せる事で鍵盤は動きやすくなりタッチが軽快になる事が期待出来ます。

 

タッチウエイトマネジメント作業完了
アクション側の作業が済んだらピアノにセットして再度整調します。

顧客が気にしていた和音が連続するような弾き方も試して
作業前よりも軽く楽になっている事が確認出来ました。
タッチウエイトが標準的な重さになりましたので、長時間の練習も捗るのではと思います。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  https://www.piano-tokyo.jp/blog/

カワイKG-2Eのタッチウエイトマネジメント

カワイKG-2E
カワイのグランドピアノの鍵盤が重い...
このままでは疲れてしまったり弾きにくいので
中村式タッチウエイトマネジメントで軽くしました。
ピアノはカワイのKG-2E。

BWは平均で45g程度で、重たい鍵盤では50g超えと重量級です。
これを最終的にBW38gとなるよう調整していきます。

カワイなのでプラ製のフレンジがスティックぎみになっていました。
ウイペンフレンジではトルクが最大8g。
作業を行う中で平行してスティック修理も済ませます。

あがきは10.3mmから10.4mmで
これをこのままにするか10mmに修正するかは調整後に決めます。
作業後ARが下がるので、作業後のARと鍵盤手前距離から
必要なあがき量を出して、実際のアフタータッチも確認しながら決定します。

現状はSRがAvg.6.3、ARはAvg.5.5
スプレッド寸法は113でした。

 

HSWスマートチェート
オリジナルのHSW。
低音は指標6から指標8とアップライトのような軽さでバラツキは大きいです。
一般的にグランドピアノの場合は低音セクションのハンマーは重たくなる傾向がありますが
何故かカワイ系は低音のハンマーが軽いものがあって
以前作業したディアパソンも低音のハンマーが軽い傾向でした。
中音から高音にかけては指標9.5から11と重めです。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナルのサンプル音での平衡等式です。
BWは大きく、Fも大きいのでDWが増えています。
FWは中音と高音でシーリング値もしくはシーリング値超え。
HSWはやはり中音から高音にかけて大きく
SRは全体に高めの傾向です。

41keyを3要素関連表で確認してみると
HSW指標が9でSRが6.3の時
FWをシーリング値マイナス3gにするには
BWが48gとなるようですが
実際のBW41.5gですので
この鍵盤の鍵盤鉛が多過ぎる事が考えられます。

 

kawai_kg2e_touchweight03
こちらは40keyでのシミュレーション。
HSWを0.3g軽くしてBWが45gから43gに。
ヒールへのスペーサー挿入でSRが0.4下がると想定してBWは43gから39gに。
もう一段階SRを下げる為にパンチングの半カットによりBWは39gから35gに。
最後に鍵盤鉛調整を行い下がり過ぎたBWを38gまで大きくし
同時にFWはシーリング値マイナス3gを達成出来る事が確認出来ます。

 

HSW修正後
HSWの調整後です。
赤が調整後で黒がオリジナルです。
指標9を目安としていますが
低音セクションは元々が軽過ぎるので
バラツキをならしつつ重めに寄せるのが精一杯です。
最後に鍵盤鉛調整を行う際に、全鍵同じSRでBW38gにした場合
低音のHSWが軽い分、低音の鍵盤が中音と比べ軽く感じてしまう可能性があるので
低音は最低音にかけて少しずつBWを大きくする事で
弾いたときに中音と比べ軽く感じないようにします。
中音から高音にかけては指標9で綺麗に揃いました。

 

FW比較計算表
鍵盤鉛は一番外側の鉛を抜いて内側に移動する効率的作業を選択します。
CoGはどう頑張っても0.376が限界で、効率的作業なのでこの辺りの数値は目を瞑ります。

 

最終結果
最終的にBWは45gから38gまで16パーセント軽くなり
動的重さも7パーセント軽くなりました。

6.3だったSRは作業後5.7に、ARは5.5から5.3に下がりました。

作業後のARから得た最終的に必要なあがき量は10.3mmでしたので
ほぼオリジナルのあがきそのままで若干修正するだけで済みました。
アクションを本体におさめて弾いてみた感じは
カワイと思えないくらい軽快なタッチに仕上がり
これなら何時間でも弾いていられそうです。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  https://www.piano-tokyo.jp/blog/

グランフィールの取付け(シュベスター Mod No.54)

グランフィール機能付きシュベスター

 

シュベスター Mod No.54 SN : 5553XX にグランフィールを取付けました。

グランフィールはお手持ちのアップライトピアノにグランフィールパーツを取付けることで
アップライトピアノでありながら「グランドピアノのタッチと響きを実現します。

 

スティック修理
すぐにグランフィールパーツの取付けに取り掛かりたいところですが
このシュベスターは、梅雨、夏、秋の長雨と湿気にさらされた為
ほとんどのフレンジがガチガチにスティックを起こしており
Fが増えてDWは70gかそれ以上と非常に重くなっています。
先ず全てのセンターピンを交換するところから作業しました。
また以前このピアノを作業した技術者は潤滑に黒鉛を使うのが好きだったようで
ヒールクロス、レバークロス、鍵盤の前後ブッシングクロスには
黒鉛がたっぷりと塗布されています。
どのような潤滑剤も技術者の好みで施工して構わないと思います。
個人的に黒鉛は最初は潤滑の機能を良くはたしてくれますが
時間の経過とともに粘りが出てくるのが気になります。
各所に塗布された黒鉛はベンジンで軽く拭き取る事で
さらっとした状態になるように処理しました。

また打弦距離が49mmと広く、あがきが9.5mmなので「働き」が出ずに
レットオフをかなり広くしてありました。
これを打弦距離46mmに、あがきを10mmにして
レットオフを低音側から3mm、2.5mm。2mmに修正します。

 

 

バット加工
ハンマーのバット加工を行います。
アップライトピアノ特有の「カラを感じるタッチ」を解消し
グランドピアノのようなダイレクト感のあるタッチとし
ジャックの抜けと戻りにも影響するグランフィール必須の作業です。

 

レペティションスプリングの取付け
レペティションスプリングが追加されました。
この他にドロップスプリングもハンマー側に追加されています。
グランドピアノには装備されていてアップライトピアノには無い部品を追加することで
アップライトピアノにグランドの機能が追加されます。

フレンジのスティック修理をした事で
DWは70gから55gまで軽くなり
表現力豊かなシュベスターに生まれ変わりました。

 

「グランフィール」については
以下のページに詳細を掲載しております↓
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  https://www.piano-tokyo.jp/blog/

「日本のピアノメーカーとブランド」

日本のピアノメーカーとブランド

按可社さんが「日本のピアノメーカーとブランド(三浦啓一著)」を送ってくださいました。
かつて日本には多くの国産ピアノメーカーやブランドがありました。

 

日本のピアノメーカーとブランド2
「メーカー編」では各々のメーカーについての詳細を、
「ブランド編」では多くの写真や当時のカタログが掲載されていて
眺めているだけでも楽しめる本になっています。
付録のメーカー年表が秀逸です。

 

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  https://www.piano-tokyo.jp/blog/

グランフィールの取付け(アポロUG122DX)

APOLLO 東洋ピアノ
アポロUG122DXにグランフィールを取付け。

いつも定期調律でお伺いしているお客様のピアノで
東洋ピアノでは、時々見かけますが
アップウエイトが不足ぎみで、鍵盤の戻りの反応が悪く
結果バランスウエイトはさほど大きくないのに
弾いていて重く感じるという状態がありますが、このピアノでも見られました。

お客様から「鍵盤が重く感じて弾きにくいので調整出来るなら少し軽くして欲しい」
との要望があり、グランフィール取付け前に
一度調整にお伺いして、タッチの調整を済ませてあります。
バランスウエイトは維持しつつ
アップウエイトを3gほど大きくしました。
果たして弾きやすいと感じて頂けるか心配でしたが
この作業のあと、お客様からメールを頂き
「指に吸い付くようになり弾きやすいです」との事で一安心。

 

タッチの調整を事前に済ませ
グランフィールパーツを取付けました。
グランフィールの取付け
タッチが重くならないようなセッティングを心がけ、
且つしっかりグランドピアノと同様のタッチ感が得られるように
取付けと調整を行いました。

 

グランフィールの納品と調整
そして本日お預かりしてグランフィールパーツを取付けたアクションの
納品と調整を行いました。
事前のタッチ調整と
グランフィールパーツの取付け時の工夫が功を奏したようで
頭の中で描いていたよりも、大分良い感じのタッチに仕上りました。
後はこのピアノをメインで弾いている子供さんにしばらく弾いてもらって
再度調整の必要があれば、好みに合うようセッティングを詰めていく予定です。

 

 

「グランフィール」
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html

 

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  https://www.piano-tokyo.jp/blog/