ヤマハC6LAのタッチウエイトマネジメント
![ヤマハC6LAのハンマーヘッド](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_eye_catch.jpg)
ヤマハC6LAのオーナー様からメールで作業依頼が。
「せっかく購入したのにタッチが重くて弾く気にならない...」とのこと。
製造番号6093XXX なのでタッチの重たい年式であることと
同時にこのクラスになると鍵盤も長くなるので
慣性モーメントが大きくなり重たいのでしょう。
タッチウエイトマネジメント作業で軽くて弾きやすいピアノに調整していきます。
![ジャック前後](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_jack.jpg)
前任の調律師さんに何度か
「鍵盤が重いので軽くしてほしい」と
何度か伝えていたようですが軽くならなかったとのこと。
ジャックをみると前に倒してありました。
ジャック位置を前にしてもタッチは軽くなりません...
![ヤマハC6LAのHSW測定](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_hsw.jpg)
まずはアクションの各部データ採集から。
HSWの測定は全鍵測定でも構いませんし
1鍵ごと、あるいは数鍵ごとでも傾向を知ることは出来ます。
私の場合は念の為というか性格上全鍵測定します...
![C6LAのウイペンバランスウエイトの測定](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_wp.jpg)
こちらはWWの測定。
ウイペンは基本的に任意の1鍵でOK。
![FWの測定](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_fw.jpg)
FWの測定。平衡等式を作成するのに必須。
![ヤマハC6の鍵盤長比較](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_key-length.jpg)
C6クラスになると、低音と高音でこんなに鍵盤の長さが違うんですね。
上が低音(1key)で下が高音(88key)です。
![オリジナルのHSW](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_smartchart01-1000x750.jpg)
HSWを全鍵測定しました。
低音は指標9.5から指標10と重めで推移。
中音に入ると指標8に下がり、次高音まで同じような傾向。
最高音では指標10と重くなっています。
このように88鍵の中で重さの傾向が音域によって違うのは普通ですし
隣り合うハンマーで4g、5g重さに差があるのが一般的です。
このピアノでは、低音と中音の境目では7gもハンマーの重さが違っています。
これではタッチは揃う筈はないですし、音色も揃いません。
![データ採集](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_data.jpg)
各部のデータ採集を済ませたら平衡等式を作成し
現状把握と改善の可能性を施行します。
![オリジナルでの平衡等式](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_original-1000x266.jpg)
C6LAオリジナル状態の平衡等式。
黒鍵こそBWは重いですが、白鍵だけでいえば寧ろそこまで重くないですね。
しかし実際弾いてみると重い。とくに低音は重い。
「BW = タッチウエイト」ではない、ということです。
![3要素関連表](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_bw_for_fw-1000x751.jpg)
低音16keyのBWは40.5gで
BWだけで言えばそこまで重い訳ではなく標準です。
しかし実際に弾くと重い。
3要素関連表を確認すると分かりやすいです。
16keyはHSWが指標10で、SRは5.7。
これらが交差する数値はBW45g。
16keyをシーリング値マイナス3gとするにはBWは45gが適正ということに。
しかし実機の16keyはBW40.5g。
つまり鍵盤鉛をたくさん入れて、BW40.5gにしているということになります。
こうなってしまうと慣性モーメントが大きくなり
BWが標準であるにもかかわらず重たいタッチになってしまいます。
「BWこそがタッチウエイトである」ということの弊害ですね...
Fは低音から中音はまずまず。
中音から高音にかけて高め。
FWは低音でシーリング値を超えています。
中音から高音にかけてはシーリング値マイナス。
HSWは低音で指標9.5から指標10と重め。
中音から高音は指標8でまずまず。
SRは低音から中音で5.6から6.2。
許容範囲ですが結構バラついてるものですね。
![C6LAの16keyでの事前シミュレーション](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_16key_sim-1000x132.jpg)
とりわけ重たい低音の鍵盤で平衡等式を利用してシミュレーション。
鍵盤は16Key。
F処理をして、Fを13.5gから11.5gに。
HSWを12.3gから11.8gへ5g減量。
これによりBWは40.5gから37.5gに下がります。
SRはパンチングカットで一段階のみ下げます。
5.7だったSRが5.4に。BWは37.5gから33.5gまで下がりました。
ラストに鍵盤鉛調整でBWを33.5gから38gまで上げると
FWは38.6gから34.1gに下がり
シーリング値マイナス3.4gとなり無理のないアクションになりそうです。
![鍵盤テンプレート](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_key_template-1000x750.jpg)
慣性モーメントの試行に必要な鍵盤テンプレートを作成します。
![FWと慣性モーメント比較計算](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_fw_sim-1000x331.jpg)
FW比較計算表 & 慣性モーメント(鍵盤)計算表
D行を採用。
タッチを重くする一番外側の鍵盤鉛を抜いて
新たに152mmの位置に12mmの鉛を追加。
40mmの位置に14mmの鉛を追加することにします。
CoG は0.474となりました。
![最終BWと慣性モーメント](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_result-1000x306.jpg)
最終的にBWは40.5gから38gとなって
換算慣性モーメントは187,571gcm2から
171,716gcm2と8.5パーセント下がりました。
![HSW調整後](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_smartchart02-1000x750.jpg)
HSW調整後のスマートチャート。
黒がオリジナルの状態。赤が調整後です。
指標9付近でばらつきの無いように仕上げました。
![ハンマー鉛](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_hammer_lead01.jpg)
軽いハンマーには鉛を入れます。
![鉛の接着](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_hammer_lead02.jpg)
ハンマー鉛は軽くかしめますが
緩むことがあるので瞬間接着剤を少量垂らして
スプレープライマーを吹きしっかり固定します。
![パンチング接着](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_balance_ratio.jpg)
バランスパンチングクロスの半カットで
SRを一段階下げます。
パンチングを鍵盤底面に接着して
鍵盤ならし用の治具をバックチェックにかけて
後方荷重で乾くのを待ちます。
乾いたらホールのセンターでクロスをカットします。
![キーピン磨き](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_keypin.jpg)
前後キーピンも磨いておきます。
さほど古いピアノでもないですがかなり変色しているのは
このピアノ、湿度管理がされていなかった上に
音楽室のピアノにかけてあるような
分厚いピアノカバーがかけてあったからです...
![バランスホールの掃除](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_balancehole.jpg)
バランスホールのクリーニング。
細麺棒にベンジンをつけてホール内をクルクルと。
ベタつく汚れが根こそぎ取れて
これだけでもかなりタッチがスッキリします。
![鍵盤鉛を抜く](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_pullout_lead01.jpg)
タッチを重くする外側の鉛を抜きます。
![外側の鉛を抜いた鍵盤](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_pullout_lead02.jpg)
外側の鉛が抜けました。
![BW基準の鍵盤鉛調整](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_measure_bw.jpg)
外側の鍵盤鉛を抜いた状態で
新たにBW基準で鍵盤鉛の位置を決めます。
![新たな鍵盤鉛の位置](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_bw_key_lead.jpg)
既存の鉛位置よりも内側に鍵盤鉛を入れて
軽いタッチを実現します。
![鍵盤穴開け](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_drilling_key.jpg)
位置決めした位置に穴開けをして鉛をかしめたら出来上がり。
![ハンマー針刺し](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_needling.jpg)
タッチウエイトが軽く弾きやすくなったら
同時に音色も楽しんで欲しい。
「色気のある音」を目指してハンマーに針を下刺し。
![ハンマーファイリング](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_hammer_filing.jpg)
針入れが終わったらファイリング。
弦溝を取り除くと同時に
ハンマーが卵型になるように整形します。
弦溝が付いているとハンマーが弦を「線」で打弦して上手くないのです。
ハンマーに丸みを持たせることで、弦と接触する面を少なくすると
良い音色になるんですね。
![ベディングスクリュー](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_glide_bolts.jpg)
整調も一から見直しになりますが
スタートはベディングスクリューの出具合。
このピアノは2.5mm強、筬から出ていました。
こうなると鍵盤とアクション全体の位置が
設計上の高さより高くなってしまうので
その後いくら各部を基準寸法にしたところで上手くいきません。
![ベディングスクリュー調整](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_glide_bolts_adjust.jpg)
ベディングスクリューを基準寸法まで引っ込めました。
納品して調律して、整調を見直して、
あらかじめおこなっていた整音の仕上げを行なって作業完了です。
1台のピアノをそこそこ良い状態にするのは意外と大変なのです...
![ヤマハC6の作業完了](https://www.piano-tokyo.jp/blog/wp-content/uploads/2023/01/yamaha_c6la_frontview.jpg)
納品と調整が終わりお客様に早速試弾してもらいました。
結果は
「軽い!」
大満足。ヨカッタ。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
メール info@piano-tokyo.jp