ディアパソンD-164のタッチウエイトマネジメント

ディアパソンD-164

ピアノの先生からの作業依頼です。(私が長年調律にお伺いしているピアノの先生から、こちらの先生への紹介案件です)
鍵盤が重く、せっかくのグランドピアノなのに連打しにくく、生徒さんも力んで弾いてしまったりするのでタッチを調整して欲しいとの事です。カワイ系はタッチの重いピアノが多いので作業依頼が多いです。
作業を行うためにアクションをお預かりにお伺いしました。ピアノは地下防音室に設置されていて、湿度管理もしてあります。これから中村式タッチウエイトマネジメントで標準的なタッチのピアノに調整していきます。


鍵盤の下の埃

鍵盤を外すと埃やゴミが降り積もってます。ここ数ヶ月で2回、別の調律師さんに調律に来てもらってるとのですが、掃除や整調はしてもらえなかったようで。


平衡等式

データ採集をしてから平衡等式を作成します。
BWは41gから53g!これでは重過ぎて弾けませんね...
Fは10.5gから19g。こちらも要調整。
FWは全鍵でシーリング値マイナス。鍵盤鉛を見ると数が少なく、BWは重めに設定されているようです。
HSWは低音が指標7から9。中音が指標9から9.5。高音が指標10.5。カワイ系のピアノに見られる傾向で低音が軽く、中・高音は重くなっています。
SRは5.6から6.2でした。


HSWスマートチャート

HSWスマートチャートを作成。
低音は軽く、中音と高音は重め傾向。バラツキも大きいのでタッチは揃って感じられず、音のアタックも揃いづらい状態です。


平衡等式を利用してシミュレーション

平衡等式を利用して事前シミュレーション。
「DW、UW」が気になる場合は、このようにDWとUWの欄を隠して作業を進めと良いかもしれません。
HSWを0.1g削減しBWは53gから52gに。
パンチングの半カットでSRが0.4下がると想定しBWは52gから47gに。
ヒールへのシムの挿入でSRをさらに0.4下げBWは47gから42gに。
最後に鍵盤鉛調整を行いBWは38gになり、FWは28.2gとなりました。


FWと慣性モーメント

外側に入っている14mmの鉛を抜いて、内側に3つ鉛を追加することに。
オリジナルより鉛の数が増えるのにタッチが軽くなるのは慣性モーメントの影響です。中村さんの書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」71ページの図を参照ください。


最終的な想定値

結果はBWが28パーセント減、慣性モーメントは5.8パーセント減となりました。弾きやすくなりそうですね。


HSW調整後

HSWを調整。
黒がオリジナル、赤が調整後です。軽め傾向の低音と重たい高音を指標9に寄せつつ隣同士のハンマーの重さのバラツキを修正しました。HSWを揃えると、全域でタッチが揃って感じ、音のアタックも揃って感じられるようになります。


猫による確認作業

念の為、猫たちにも確認してもらいます。


オリジナルのハンマーテール

オリジナルのハンマーテールはツルツル。


テールにスカッチを入れる

テールにスカッチを入れて確実にバックチェッキングするようにしておきます。


ローラーの黒鉛

ローラースキンには黒鉛がびっしりと付いていました。ここに黒鉛が付着しているとFへの影響がとても大きいです。


スキンの黒鉛を除去

ローラースキンに付いていた黒鉛を落としました。これだけでもFはかなり下がります。


ヒールにシムを挿入

SRを下げる位置にヒールシムを挿入していきます。


ヒールクロスの汚れ

ヒールへのシム挿入と同時にヒールクロスの汚れも落としておきたいところです。


ヒールクロスの掃除

ヒールクロスの汚れを落として、PTFEパウダーを施工します。


バランスパンチングクロスの接着

バランスパンチングクロスの奥側に接着剤を塗布したらバックチェックに重りを掛けておきます。接着が乾いたらパンチングを半カットしSRを下げます。


バランスピン磨き
バランスホールの掃除

前後のキーピンを磨き、バランスホールをブラシで掃除。鍵盤のバランスホールは細麺棒にベンジンをつけて掃除します。バランスホールの内側は意外と汚れていて、ここをベンジンでクリーニングすると鍵盤の動きがスッキリします。


ブッシングクロスのヘタリ

よく弾かれる中音付近のブッシングクロスが潰れていて、鍵盤の横振れが大きくなっていました。せっかく弾きやすい重さのタッチに調整しても、鍵盤がブレブレだと弾きにくいでしょう。


古いブッシングクロス

ヘタリの大きい中音のキーブッシングクロスを取り除きます。


鍵盤ブッシングクロス交換

結局、中音のブッシングクロスの大半は交換となりました。


鉛の抜き出し
鍵盤鉛を抜く

事前にタッチを重くしている外側の鍵盤鉛を抜き出しておき、BW基準で新たな鍵盤鉛の位置を決めます。


鍵盤穴あけ
鍵盤穴あけ後

新たに内側に鍵盤鉛を入れることで慣性モーメントが小さくなりタッチは軽くなります。


白鍵キートップの剥がれ

キートップの奥側の接着が剥がれて浮いています。カワイの鍵盤では時々見られます。この状態で弾くとペチペチと雑音が出ます。


キートップを接着

白鍵上面を接着しておきます。


白鍵の欠け

1鍵だけ白鍵の先端が欠けていました。


アクリル樹脂

アクリル樹脂で固めて整形します。


白鍵の欠けを補修

白鍵の欠けを補修。


鍵盤脇の汚れ

たくさん弾かれたピアノは鍵盤の脇が汚れてしまいます。


鍵盤脇の掃除

鍵盤脇の汚れを掃除しました。


事前整調

納品前に事前整調しておきます。


コーヒー

納品時にもう一度、整調を行い完成です。
先生にも整調の一部をお手伝いしてもらい作業を体験して頂きました。
コーヒーありがとうございます!


タッチ調整完了

弾きやすいタッチになって、先生にも喜んで頂けました。
後日メールを頂戴し、生徒さん達も喜んでいるとの事。
このピアノ、タッチ以外にも課題が残っていますので、今後の定期調律の際にそちらも手を入れていく予定です。


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。


渡辺ピアノ調律事務所
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