ザウターからR2を取り外す

SAUTER(ザウター)のアップライトピアノには
R2アクション搭載モデルというのがあります。

「R2アクション」。
なんだか強そうな名前ですが
普通のアップライトピアノには付いていない板バネが
ジャックに追加されているアクションのことです。

鍵盤を押し下げていくと、ジャックが手前に倒れていきます。
板バネはジャックとせめぎ合う格好で
ジャックを元の位置に戻そうと作用します。

これによりジャックがバットの下に素早く戻れるので
連打性が上がるという理屈ですね。

そんな便利なものなら、他所のアップライトピアノにも
付いてて良さそうなものです。
ですが普通のアップライトに板バネ(R2)がついてないのには理由があります。

ジャックが手前に倒れていくのと押し合うように作用するバネというのは
タッチを猛烈に重くしてしまうのです...

素直にジャックが脱進できないので
タッチも重く粘っこい感触になってしまい
どうにもスッキリしないです。


ある時、某クラヴィアマイスターがとても良いことを言ってました。

「ピアノは完成形。何も付け足す余地はないし、何かを差し引く余地もない」と。

まさにその通りで、現代のピアノは限りなく完成形で
何かを後から付け足す余地はないのです。

従って、何か付け足したら必ず問題が生じることとなります。


私がこの仕事を続けていて感じるのは
アップライトピアノという楽器はなかなかに良く出来てるなぁってこと。
巷で「アップライトだと上手く弾けない云々」という話もありますが
そのほとんどは拝見させていただくと整調不良...
という訳で、今回は思い切ってR2(板バネ)を取り外して
普通のピアノアクションに戻してみようという試みです。


ジャックに植えられた板バネがR2の正体。


ジャックに植えられた板バネがR2の正体。
丸く開けられて穴に挿し込んで接着剤で固めてあるだけ。


バネはペンチでつまんで引き抜くと簡単に取り外せます。


バネが取り外されて普通のピアノと同じ仕様になったウイペンアッセンを無表情で見つめる猫...


取り外したバネは念の為セクションごとに保存しておくことにします。
万が一、元に戻したいとなった時に戻せるように。
(おそらく戻したいとは思わないはずですが)


実はこのザウター、湿気でスティックだらけです...
今回はスティック修理も同時に行います。

アクション全体で300本近くあるセンターピンを交換していくのですが
無心で地味な作業をひたすら続けます。


とぼけた顔のニャン太郎。作業を手伝ってくれたりはしない...


お客様の好みは落ち着いた音色。
このピアノはどちらかというとガン!ガン!とうるさい音がなっているので
ハンマーは事前にたっぷり針入れをしてファイリングしておきます。


アクション関係の作業が終わったら
ピアノにアクションをセットして整調を行います。

整調の工程の一つレットオフ調整。
ボールを手から離すタイミングをいつにするかといった調整です。

ピアノの場合はボールはハンマー、手はジャック。
ハンマーが44mm進み、弦まで残り2mmのところまできたら
ジャックの突き上げは終わり、慣性でハンマーは弦まで進む仕組みです。


調律と整調が終わったら
整音を繰り返して理想の音に近づけていきます。


ハンマーファイリングをした時には
必ずチェックしたいのが「同時打弦」。
ハンマーの先端を弦に軽く当ててピックで弦を弾いてみる。
ハンマーの先が3本の弦に同時に接触していれば
3本の弦からは同じようなミュート音が「ペンっ!」と鳴る。


湿気によるスティック対策として
ダンプチェイサーも取り付けました。

除湿機による部屋全体での湿度管理も行ってくれるようなので
今後は湿気によるトラブルは心配なさそう。


作業が終わって顧客に試弾してもらったところ
落ち着いていて芳醇な音色が鳴っていて満足いただけました。
R2のバネが無くなったことで、スッキリしたタッチにもなりました。
ぶっちゃけて言えば、板バネは必要ないです。

ザウターR2やグランフィールをお使いで
鍵盤が重たいと感じる方、バネの取り外し承ります。
お気軽にご相談ください。


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渡辺ピアノ調律事務所
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