グランドピアノの鍵盤が重いので軽くしたい

ベーゼンドルファー

ピアノはベーゼンドルファーのセミコンです。

お客様曰く、

「弾いている時は集中しているのであまり気にならないが、弾き終わった時に手や腕に疲労を感じる」
「ホールで弾くスタインウェイのタッチが軽いので、自宅のベーゼンドルファーとの重さのギャップを少なくしたい」
といった内容です。
実際に弾いてみた感じとしては、ピアニッシモでもそれなりに重く感じ
フォルテやトリル、トレモロでも重さを感じます。
この事からバランスウエイトを今より小さくして
同時に慣性モーメントもある程度小さくする方向で調整出来ればと思います。
タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
弾きやすいピアノとなるよう改良していきます。
また重たいのは低音から次高音のはじめまでで
次高音の途中から最高音にかけては軽く弾きやすいので
SRの変更と鍵盤鉛調整は、低音から次高音のはじめにかけてのみ行い
次高音の途中から最高音のSRと鍵盤鉛は現状維持とします。
このピアノはヒールクロスの接着が、ヒールの多くの面でされているので
SRの調整はパンチングの半カットのみ検討しています。
高音は半カットしませんので、カットした音域と
鍵盤ならしが違ってきますから、ならしを均一になるよう再調整します。
整調は特に問題なく、鍵盤とフレンジともにスティックは無し。
シャンクフレンジはむしろトルクが1g以下になっているものが
何ヶ所かありましたのでセンターピン交換をして適正トルクに修正しました。
またジャックに液体黒鉛を塗り直しておきました。
レシオ類は、ARが5.6、SRは6.0でした。

 

 

オリジナルの平衡等式

オリジナルのサンプル音の平衡等式です。
低音と中音の白鍵のBWが大きく
FWはシーリング値を超えている鍵盤もあります。
3要素関連表では
HSWが指標9で、SRが6.0の場合
FWをシーリング値マイナス3gとするには
BWは45gとなるようです。
しかし実際にはこのピアノのサンプルキーC1は
BW42.5gですので、鍵盤鉛が多めかそれらを手前に寄せて配置している、
あるいはサイズの大きい鉛でFWを大きくすることで
BWを小さくしていると考えられます。

 

シミュレーション

サンプルキー(低音C1)での
平衡等式を利用したシミュレーションです。
数値は左から、DW,UW,BW,F,FW = KR,WW,WBW,HSW,SR,
(一番右はFWシーリング値とHSW指標)。
HSWを指標9から指標8に下げ
バランスパンチングの半カットでSRを仮に0.4下げ
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行うことで
BWがオリジナルより5g小さい37.5gに
FWはシーリング値マイナス3.9gを達成出来ることが
シミュレーションにより分かりました。
HSW(黒)は、低音が指標8から9、中音下から途中までは指標9から9超、
中音の途中から次高音は指標8、高音は途中までが指標8から9、
最高音が指標9から12でした。

スマートチャート

HSW(赤)全体を指標8辺りで均す方向で調整しました。
最高音は弾いた感じは重くないので、音色のバラツキを揃える方向での調整とします。

 

鍵盤テンプレート

鍵盤の慣性モーメントを算出するために
サンプルキーの鍵盤テンプレートを作成しました。

 

フロントウエイト比較計算表

鍵盤の一番手前に入っている大鉛を抜いて
バランスピン側に鉛を入れ直す事で目標FWを達成し
同時に慣性モーメントも小さくする方向の効率的作業で
BW基準の鍵盤鉛調整を行います。

 

換算慣性モーメント

オリジナルの状態と比べて、BWは12パーセント下がり
換算慣性モーメントは9.2パーセント下げる事が出来ました。
作業後にお客様が30分程試弾しての感想は
「鍵盤の返りが速く感じます」「以前は重かった左手(低音部)が楽になりました」
との事でした。
私が弾いた感じではズッシリとした重さが無くなり、弾いていて楽だなぁという印象です。
BWだけでなく慣性モーメントもある程度小さく出来たので、良い結果が得られたようです。
またHSWのバラツキが無くなった事で
音色のバラツキがほとんど気にならなくなりました。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

購入時より鍵盤が重くなった

ピアノ購入時(納品時)と比べて鍵盤のタッチが重くなったとの事で
主な原因は湿度が高過ぎる事によるスティックが原因です。
納品は昭和48年で、ピアノは東洋ピアノ(アポロ)の
フリッツクーラ特性50号です。

アクションパーツにカビがみられるくらいに
湿度の高い環境ですので
センターピンを全交換することになり
アクションをお預かりして修理、調整しました。

アクションをざっと見て気付くのは
アップライトにしては大きめのハンマーが付いている事。
聞けば、一度ハンマー交換をしているそうで
恐らくその時に大きめのハンマーに交換されたようです。
またハンマー交換と同時に鍵盤鉛が抜かれて埋め木されています。
もっともこのピアノは、もともと一部の白鍵にだけ
直径10mmの鍵盤鉛が入っていて
他の鍵盤には鉛が入っていなかったピアノなので
後で必要があれば再度、鉛を追加する事にします。

センターピン交換
センターピンは全て交換しますが
特にバットフレンジは、正確にトルク調整しました。
音色とタッチのバラツキを揃えるのが狙いです。
交換前の状態は規定のトルクをはるかにオーバーしていました。
バットプレートスクリューの締め付け過ぎで
センターピンが曲がっているものがいくつもあったり
フレンジからセンターピンが飛び出したものも何ヶ所かありました。

以前どなたかが作業したものと思われますが
湿気でスティックしたフレンジを修理せず
そのままでどうにか動く様にしたかったのか
バットスプリングが異常に強くしてあったので
(BSFは15gを軽く超えているくらいに強かった)
通常の強さに戻しました。
再調整後BSFを計ってみたところ 11g でしたので
まずまず問題ない強さになりました。

一部のジャックスプリングも
無理矢理引っ張って強くしてありましたので
何ヶ所か交換しておきました。

ダンパースプリング力は、まずまず平均的な強さで
一部極端に強い箇所と弱い箇所のみ修正しました。
スティックを解消し、スプリング力を普通にするだけで
かなりタッチは軽く感じる予感です。

見た目にも大きく重そうなハンマーでしたので
念のためHSWを全鍵分計ってみました。
HSWを測定

HSW
やはり相当重たいハンマーに交換されていて
低音はバラツキがかなりあるものの指標7から8でまずまず、
中音からかなり重くなって指標10から11、
次高音が指標11から12、最高音は指標13から13超えです。

このハンマーの重さは
タッチの重さの原因の一つと言えそうです。
低音はばらつきを揃え、
中音、高音は出来る限り軽くしつつ
全体が少しでもなだらかになるように調整する事で
タッチと音色のバラツキを揃えるようにします。

ハンマー鉛
軽過ぎるハンマーにはハンマー鉛を追加します。

ハンマー軽量化
重過ぎるハンマーは下側から穴開けをして軽量化しました。
テール部もカットしたかったのですが
このピアノのハンマーはテールが短く
カットする余地がほとんどないので
テールのカットは行いませんでした。

HSW2
黒が元のHSWで、赤が調整後です。
ハンマー重量の増減には限界があるので
理想的とは言えませんが
元の状態よりは軽く、バラツキは大分無くなりました。

修理調整前のサンプル鍵盤C4のBWは45.5g
作業後のBWは40.5gまで軽くなりました。
フリクションは13で許容範囲です。

サンプル鍵盤C4のもともとのMoI(H)が1811gcm2
調整後のMoI(H)が1744gcm2になり
MoI(W at Key)は、
181806gcm2から175736gcm2に小さくなりました。

作業後、もし軽過ぎるようだったら
タッチ調整鉛を追加して調整しようかと考えていたのですが
実際の作業を終えて試弾してみた感じでは
鍵盤鉛の入っていないピアノですが
十分に弾きやすいタッチでしたので
あえて鍵盤鉛は追加しませんでした。

鍵盤鉛の入っていないこのピアノの
MoI(K)は10863gcm2と小さいのですが
比較的重めのハンマーが付いていて
SRが2.4とアップライトとしてはまずまず大きいので
鍵盤鉛が無くても十分に弾きごたえがあるようです。

お客様に試弾して頂いたところ
「軽くなってます!」とのことで
このタッチで問題なさそうです。
しばらく弾いてみて頂いて
もう少しタッチに弾き応えが欲しいような時は
あとで鉛調整する事となりました。

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

消音ユニットの取外し(カワイAT-22)

カワイAT-22
最初から消音ユニットが付いたピアノ、
カワイ AT-22」の消音装置を取外しました。

お客様からのメールで
「消音ユニットは既に故障していて使っていない。
 ユニットを外すとタッチが良くなると聞いたので外して欲しい」
というご依頼です。

お伺いしてみると

  • レットオフ 15mm
  • ハンマーストップ 25mm

と、驚きの整調寸度になってました...
消音ユニットが付いているピアノは
消音都合でピアノの整調が犠牲になりますが
それにしてもな調整です。
当然弾いてみるとタッチに腰はなく鳴りも悪い。

消音ユニットの取外し
故障して使えなくなった消音ユニットの部品を取り外しました。
後付けの消音ユニットとは違い
消音ありきのピアノのため
左側の拍子木にスイッチ類は残りますが、その他の部品は全て外せました。
これで消音の部材が原因の、共鳴による雑音もおさまります。
そして、これで普通の整調が出来るピアノになりました。

  • レットオフを3mmから2mm
  • ハッマーストップを15mmから13mm程度に
  • スプーンの掛かりがはやすぎてタッチが重いので、掛かりを1/2に
  • ダンパースプリングが強過ぎるので適正に

その他、鍵盤調整や各部潤滑など諸々手を入れて
お客様に弾いて頂いたところ
鳴りが1.5倍になり、弾きやすくなったとの事です。

実際には鳴りが良くなったのではなく
消音が付いていたために普通に調整出来なかったのが
取り外した事で本来の状態に戻ったということですけど
確かに消音を外したピアノは、生き生きしているなぁと感じます。

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

カワイUS-5Xの修理・調整

カワイ US-5X
カワイのアップライトピアノ、US-5Xの修理と調整をしました。
カワイのいわゆるプラスチックアクションで
遠目で見ると木のように見えますが
ベージュのプラスチック(ABS樹脂)がアクションパーツに使われてます。
長年の湿気を吸わせたことにより酷いスティックをおこして
ハンマーは写真のようにハンマーレールまで戻ってきません。
ハンマーウッドにはカビもみられます。
当然、鍵盤はずっしりと重く
思う様にコントロール出来ない状態です。
カワイのプラスチック製のフレンジのスティックは
ブッシングクロスに湿気を溜め込んでしまうのが
主な原因と言われていますが
リーマーを通した時の感触では
ブッシングクロスそのものの質もどうもイマイチに感じます。
また、カワイのセンターピンが真鍮そのままで
表面処理されていないピンであることも
センターピンの劣化を早めていると思います。


カワイのスキン

肌色のようなベージュのような
プラスチックアクションが採用されたカワイでは
バットスキンとキャッチャースキンに
品質の悪い合皮が使われていて(本来は鹿革バックスキン)
合皮のスキンがボロボロに削れ
写真のようにキャッチャー周りや
バックチェッククロスにゴミのように堆積します。
当然バットスキンとキャッチャースキンの表面は
滑らかでは無い状態となってしまいます。
カワイのスキン(合皮)
バットスキンもキャッチャースキンもボロボロに...


カワイのバット

肌色プラスチックアクション時代のカワイのアップライトでは
写真の丸で囲ったところ
バットまわりに問題が多いと思います。
カワイのタッチがどうもスッキリしない事の原因の一端は
この部分にありそうです。(ここだけではありませんが)

  • バットスキンの品質の悪さ
  • バット形状の悪さ
  • ジャック奥側角の面取り不足

まずは前述の合皮スキンの品質の悪さ。
バットスキンはその下にあるジャックの頭で
鍵盤を下ろしていくとともに突き上げられ
鍵盤を戻していく際は、ジャックの頭のが
バットスキンと常に接しながら元の位置へと戻ります。
バットスキンはジャックの通り道で
脱進時以外はジャックの頭とバットスキンは常に触れています。
一定以上の品質の本革のスキンが使われているバットでは
ジャックは滑らかにバットスキン上を移動出来ます。
このタイプのカワイのバットスキンの場合
例えるならば、ゴルフ場で草ボーボーのラフで
ゴルフボールを転がすような状態で
転がり抵抗が大きく効率が悪いです。
ゴルフボールをスムーズに転がすには
グリーン上のように綺麗に整えられた芝でなければなりません。
今回は合皮のスキンから本革のスキンに交換します。
バットスキンの品質の悪さとともに好ましくないのが
バットの形状です。
カワイのバットのアール
写真のようにバットの形が悪く
ジャックの動作に影響が出てしまいます。
今回はバットスキン交換と同時に
グランフィールの「ハンマーバット加工」を応用して
バットの形(アール)を変更します。
これによりジャックの抜けと戻りがよくなる筈。
一つ前の写真の丸で囲んだところで
もう一つ問題があります。
ジャック先端の奥側に面取りが足りません。
ほんの少し面取りしてやると
ジャックの戻りは良くなり
バットスキンの寿命も伸びるようになるかと。
この部分はジャックのセンターピン交換と同時に
面取り加工する事にします。
新しいバットスキン
新しいバットスキンとキャッチャースキンを用意します。
バットにはレンナーのスキンを使い
キャッチャーにはシャフのスキンを使います。


木製ウィペンフレンジ

スティック修理という事で
全てのセンターピンを交換しますが
ウィペンフレンジはこの機会に
木製のフレンジに交換します。
これでプラスチックフレンジの時よりは
スティックを起こし難くなると思います。


木製バットフレンジ

バットフレンジも木製フレンジに交換します。
バットフレンジは他のフレンジと比べ
特にタッチ感に影響してくるので
木製フレンジに交換し、トルクゲージで
適正トルクに調整してやると
プラスチックフレンジの時よりタッチは良くなるのと
スティック防止にもなります。


修理完了

スキンの交換やフレンジの交換が終わりました。

このアクションの場合の作業内容は

  • バットスキン交換(合皮から本革に)
  • キャッチャースキン交換(合皮から本革に)
  • バット形状の加工
  • ジャック先端奥側の面取り
  • バットフレンジ交換(プラスチックから木製に)
  • ウィペンフレンジ交換(プラスチックから木製に)
  • バットセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
  • ジャックセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
  • ウィペンセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
  • ダンパーセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
  • バットスプリング圧、再調整
  • ダンパーレバースプリング圧、再調整と潤滑
  • ダンパースプーン磨き直しと潤滑
  • ダンパーロッドの磨き直し
  • ハンマーへの針の下入れ(主に中音セクション)とファイリング
  • 84key(G#)から88key(C)までのハンマーにクリアトーン施工
  • 全体クリーニング

 

のような内容になりました。
ダンパーレバースプリングの圧は少し弱めてあります。
カワイのアップライトではよくみられますが
スプリング圧が強く、ダンパーペダルを踏まずに弾いている時と
ペダルを踏んで弾いた時とで、鍵盤の重さの差が大きい事があり
それを解消する目的です。
仕上がったアクションは納品して調整します。
バットスキンの交換とバットの加工をしている場合、
整調が大分変化するので、もう一度全体整調を行います。

ダンプェイサー
スティック対策でダンプチェイサーも取付けました。
梅雨の走りの時期ですので、今すぐ運用したいところですが
今回は取付けのみで、導入は冬にします。
理由はリンク先の通りです↓

ダンプチェイサーを初めて導入する際の注意点
調整作業を終えたピアノを弾いてみたところ
概ね想像通りのスムーズなタッチのピアノになりました。
具体的には、アップライトでありながら
段階的に音量の変化が付けやすくなっています。
状態の良いスキンになった事やバットの加工等
じわじわと効いているようです。

お客様の反応は、
「音がハッキリしました。嬉しいです!」との事。

弾き手の立場では、耳に届く音とタッチは独立したものでなく
双方トータルの感触がタッチ感や響きとして捉えられる事も多いので
スッキリしたタッチは、音の良さと捉える事も納得です。
実際には音色も確かに変化していますが。

あと、これは顧客から特に不満も要望も出ていないので
今のところはそのままですが
私がこのカワイを弾いた感覚では
バランスウェイト40gで確かに弾きやすいのですが
もう少し手応えが欲しい欲求にかられます。
お客様にもう少し弾きこんで頂いて
もし、そのような要望が出て来たら
鍵盤のバランスピンから等間隔に
前後に鍵盤鉛を追加してやり、慣性モーメントを増やしてやると
もう少し高級感のあるタッチになりそうです。
今回の作業で感じたのは
フリクションって重要だなぁ...です。

 

カワイUS-5Xの修理・調整@東京都西多摩郡

 

 

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

クニユキピアノの修理、調整

クニユキピアノアクション
スティック修理やその他の部分の為に
クニユキピアノのアクションをお預かりして
センターピンなどを交換しました。

「スティック」というのは
アクションに300ヶ所近くある可動部、
人間で言う「関節」にあたる部分の
動きが悪く、正常に動作出来ない状態を言います。
アクションの他に鍵盤側でもスティックが起こります。

以前から修理をお勧めしてはいたのですが
スティック状態のまま騙し騙しお使いでした。
ここに来て、症状も酷くなりまともに弾く事が難しい状態となってきて
お客様も観念したのか、ようやく修理する運びとなりました。

長年、極端な湿気(梅雨から夏季)と乾燥(秋冬)を繰り返し
フレンジは重度のスティックでギリギリ動くか動かない状態。
各部の接着は剥がれ、金属部品の劣化などがあって
調律に伺う度に数カ所の修理を応急的に処置するのが
何年も続いていました。

バットフレンジのセンターピン交換
バットフレンジのセンターピンを全て交換。ガチガチです。
フレンジ専用のトルクゲージを使い、最適なトルクにして
88ヶ所を均一なトルクに調整します。
バットフレンジのトルクは、タッチ感にダイレクトに影響してきますので
慎重に調整します。

劣化したバットスプリング
ハンマーアッセンブリーではもう1ヶ所問題が。
バットスプリングが劣化して
写真のように垂れ下がり機能していません。
これまでも調律にお伺いする度に1本、2本折れていました。

折れたバットスプリング
軽く触ると折れてしまいます。

バットスプリングの交換
バットスプリングを88本全て交換しました。

ウィペンのセンターピン交換
ウィペンアッセンブリー(ジャック、ウィペン)のセンターピンと
ダンパーフレンジのセンターピンも全て交換し
適正トルクに調整します。
このピアノの場合、交換前に正常な動きをしているフレンジは
1ヶ所くらいしかありませんでした。
ジャックの頭の奥側は、いい感じに面取りされていました。
バットスキンの質もそんなに悪くないので
センターピンを交換すれば、ジャックはスムーズに戻る筈です。
ご予算のある方は、バット加工(グランフィールでお馴染みの作業)をすると
より素早くジャックが戻るようになります。
グランフィールを取付けなくても
バット加工だけでも一定の効果が期待出来ます。

オリジナルのセンターピン番手は

  • バット #0 1/2
  • ジャック #20
  • ウィペン #20 1/2
  • ダンパー #20 1/2

でした。

ウィペンヒールの剥がれ
ウィペンでは、もう1ヶ所問題があって
ウィペンヒールの接着が切れて
これも毎回の調律に伺った際に
2ヶ所くらいポロッととれていたので
全て外して再接着しておきます。
軽く触れると簡単に取れてしまう状態でした。

ダンパーロッド
ダンパーロッドも汚れが堆積しザラザラになっていました。
このままの状態で使い続けると
ダンパーレバークロスが削られてすり減ってしまうのと
雑音の原因になります。

ダンパーロッドの磨き直し
磨き直し、元の位置にセット。

拍子木
拍子木も接着が切れてバラバラに。再接着します。

その他、
ハンマーは中音セクションに針入れ、
低音セクションと高音セクションにクリアトーン施工、
シューシャインにてファイリング。

センターピン交換後に潤滑剤塗布。
バットとそれ以外のセンターピンで潤滑剤を使い分けるようにしています。

ダンパースプーンの磨き直しと潤滑。

ダンパーレバースプリングの潤滑。

ジャック奥側の角を潤滑。

キーピンの錆
低音側に集中していたのは
バランスキーピンの錆。

バランスキーピンの交換
特に錆の酷いバランスキーピンは交換して
残りは磨き直しました。そのあと潤滑処理。
バランスキーピンと鍵盤側バランスホールの状態が悪いと
良いタッチが得られません。

アクションをセット

クニユキピアノロゴ
アクションをセットし調整を終え仕上がりました。

これまでが酷いスティック状態でしたので
フレンジがスムーズに動く様になって
タッチは軽快に、鳴りも良くなっています。
まったく効いていなかったバットスプリングの抵抗を
指先に感じる事が出来ます。

しかし
出来るだけ丁寧に修理、調整していますが
今回は思っているほどには良い状態になってくれません。
音にもタッチにも腰がありません。
原因は
コルグ消音ユニット
後付けの消音ユニット...
消音バー(ストッパー)が邪魔をして
レットオフがかなり広い状態にしか出来ません。
もちろん消音バーの取付けを見直して
限界までレットオフを狭く出来るようにしてはいるのですが
コルグ(テクニクス)の場合
消音バーの回転軸の固定部分に遊びが出来てしまう構造なのと
消音バー自体のたわみの分も加わり、
さらにピアノ側の季節変化分も考慮した調整にすると
かなりレットオフを広げておかないとなりません。
消音ユニットは電子ピアノで代替えするようにして
ピアノに余計なものを取付けず
元の状態に戻せば、もっと良い音とタッチのピアノになりそうです。

ピアノ防湿器ダンプチェイサー
スティック修理後に再発しないよう

ピアノ防湿器ダンプチェイサーを取付けました。

スティック修理のご依頼は非常に多いです。
ピアノは適湿、適温で管理して頂かないと
快適にご使用頂けなくなってしまいますので
湿度、室温、ある程度気にかけてくださいませ。

フレンジのトルクが適正でない状態のまま
どれだけ調整しても、良い状態にはなりません。
例えるなら、汚れ水垢、鉄粉だらけのまま
自動車にワックス、コーティング掛けしているような状態です。
下地を綺麗にした上で、ワックス、コーティングの効果が生きてくる訳ですから
まずは調整のベースとなる鍵盤からアクションまでを
理想的な状態にしておく事が
良いタッチと響きのピアノに仕上げるために必要不可欠です。

 

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/