カワイKG-3Cのタッチウエイトマネジメント

カワイ KG-3C
カワイのグランドピアノ KG-3C をお使いのお客様からEメールで
タッチを軽くして欲しいと作業依頼がありました。

ご自宅にピアノの先生が来てくれ
KG-3Cでピアノのレッスンを受けているそうなのですが
その先生から「このピアノのタッチは重すぎて弾けないので
当事務所にタッチを軽くしてもらっては」と案内されたそうです。
顧客曰くタッチウエイトに理解のあるピアノの先生らしく
昔製造された重いタッチのピアノで星飛雄馬のように練習するのではなく
現行の欧州ピアノ程度のBWで練習するのが望ましいとの考えだそうです。
また最先端のタッチウエイト調整の存在もご存知とのことでした。

もちろんピアノの所有者である顧客当人も
タッチが重いピアノだと感じていたようです。
アクションを引取に伺う前に調律を済ませておきました。

少し弾いてみただけでも重いと感じますし
BWを計ってみると45g以上、50gを超える鍵盤もあり確かにとてもタッチが重いです。

 

ルーズピン修理
調律中、ルーズピンが5本ほどあったので処置しておきました。
フレームに染みが見られるので、何か液体をこぼしたのかもしれません...

しばらくの間アクションをお預かりして
中村式タッチウエイトマネジメントでもう少し弾きやすいタッチに調整します。

 

 

ウイペンアシストスプリング
低音と中音のウイペンにはアシストスプリングが付いていて
次高音と高音にはアシストスプリングがありません。

まずアシストスプリングが付いた状態でバランスウエイト(BW)を計ってみました。
・C1(4) DW70g UW33g BW51.5g F18.5g
・C2(16) DW65g UW34g BW49.5g F15.5g
・C#2(17) DW65g UW30g BW47.5g F17.5g
・C4(40) DW61g UW36g BW48.5g F12.5g
・C#4(41) DW63g UW29g BW46g F17g
・C6(64) DW60g UW35g BW47.5g F12.5g

BWは46gから51.5gでサンプルキー全てで重すぎて弾けない重さでした。
Fも少し大きめです。

 

ウイペンアシストスプリングを生かして調整する事も出来ますが
調整機構が無いタイプなので後々メンテナンスが面倒なのと
アシストスプリングが付いているとタッチが
安価なマウンテンバイクルック車に付いているFサスペンションのようになり
力が逃げるばかりで、無いほうがダイレクト感が得られるので
取り外して調整します。

アシストスプリングを外してBWを計り直してみたところ
・C1(4) DW92g UW59g BW75.5g F16.5g
・C2(16) DW94g UW65g BW79.5g F14.5g
・C#2(17) DW90g UW56g BW73g F17g
・C4(40) DW82g UW58g BW70g F12g
・C#4(41) DW83g UW51g BW70g F12g
・C6(64) DW60g UW35g BW47.5g F12.5g

BWは70gから79.5gとなりました。
アシストスプリングがBWの20g以上を担っているようです。
ウイペンを外して手でフレンジを持ってみると
ウイペンは30°くらいの角度で跳ね上がります。
C6(64)はもともとアシストスプリングが無いので変化はありません。

2g重りによるSRは
低音6.5 中音6.25 高音6.75

6mm治具によるARは
低音6.1 中音 5.8 高音5.75

 

オリジナルのHSWチャート
オリジナルのHSWを全鍵チェックします。
低音は指標7から指標8と軽く、K社のピアノによく見られる傾向です。
中音は指標8から指標9
高音は指標10から指標11と重め。
これらの分布から指標9近辺でなめらかに揃えるのが現実的でしょうか。

 

オリジナルサンプルキーの平衡等式
オリジナルのサンプル音での平衡等式を作成。

ウイペンアシストスプリングはコードから外して測定しています。
BWは最大で79.5gととても重いです。
Fは鍵盤によって少し大きいです。
FWはアシストスプリングが付いている低音と中音は極端に軽く
アシストスプリングの無い次高音と最高音ではシーリング値を超えています。
KRは0.53から0.54。
HSWは指標7から指標11。
SRは6.8から7.1とかなり高め。

HSWは指標9で揃えて
SRを2段階下げ
FWはシーリング値を超えないギリギリのラインで設定して
BWを下げられるところまで下げ
BW基準の鍵盤鉛調整の際に鍵盤鉛を内側に寄せていれ
慣性モーメントを小さくするという見立てになりました。

 

平衡等式を使った事前シミュレーション
C4(40)の平衡等式を使った事前シミュレーション。
HSWは指標9で揃える予定なのでそのまま変わらず。
ヒールへのシム挿入でSRが0.4程度下がると見込んで、
HSWは10.4gなのでBWは4g軽くなると見込みます。
続いてバランスパンチングの半カットでSRを0.4下げて、BWがさらに4g軽くなります。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整をする際にFWをシーリング値ギリギリの
29.9gにするとBWは43gになります。
すごく軽いタッチとはなりませんが
現行のY社のグランドピアノはBWが43gくらいあったりするピアノもあるので
作業前の状態よりは弾けるピアノになるのではないかと思います。
本当はFWをシーリング値マイナス3gにして
BWを45gくらいに設定するとセオリー通りなのですが
まだまだ静的重さでタッチウエイトを判断する方が多いので
今回は忖度してBWを優先して下げています。

 

 

HSW調整後
HSW調整後のスマートチャート。
指標9付近で滑らかに揃えました。
隣り合うハンマーの重さが揃うので
タッチだけでなく音色も揃ってきます。

 

変形したローラーナックル
ハンマーのローラーナックルは変形していてタッチに影響が出そうです。

 

ローラーへのシム挿入
ローラーにシムを入れて形を整えました。
ジャックはABS樹脂なのでローラースキンに黒鉛は付着していませんでしたが
サポートトップの黒鉛が付いているので
ローラースキンを軽くブラシ掛けしておきました。

 

テールのスカッチ入れ
ハンマーのテールにはスカッチが入っていなかったので
スカッチを入れておきました。
その他6ヶ所のハンマーでフレンジのトルクが大きかったので
センターピンを交換しトルク調整しました。
ハンマーフェルトにはそこそこの弦溝が入っていたので
ファイリングも済ませておきました。

 

 

 

アシストスプリングを取り外す
アシストスプリングがあるとタッチにダイレクト感が得られないので
全て取外しました。

 

ヒールクロス
ヒールクロスには黒鉛が塗られ真っ黒に。

 

ヒールへのシム挿入
ヒールクロスの黒鉛をベンジンで落とし
シムを挿入しSRを1段階下げます。
仕上げにヒールクロスにはPTFEパウダーを塗布しておきます。

 

バランスパンチングクロスの半カット
SRの高いピアノなのでバランスパンチングクロスの半カットで
SRをもう1段階下げます。
接着している間、鍵盤ならし用の重りをバックチェックに掛けておくと
鍵盤が後ろ加重の状態でパンチングクロスを接着出来ます。
パンチングの半カットでは、鍵盤が下りていく際の
鍵盤底部でのパンチングの圧縮が無くなることが注視されがちですが
実は物理的な支点が奥側に移動する事でギアレシオが変わります。
ギアレシオの説明は、昨年の中村さんの研修で
自転車のギアを使った解説が私にはとても分かりやすかったです。
多段のスポーツ自転車に乗る方ならば
フロントのチェーンリングをアウターやインナーに変え、
リアのスプロケットの歯数を換えて組み合わせる事の変化が
経験として理解し易いと思います。
同じ自転車であってもフロントのチェーンリングが52tで
リアのスプロケットが11tの組み合わせだった場合
プロのライダーを除いて、ホビーライダーにとっては
重すぎて漕ぎ出す事が難しいか、
短時間は踏めても長時間漕ぎ続けることは難しいケースが多いでしょう。
例えば仮にフロントを36tにしてリア21tにすると
多くの人が楽に踏める筈です。
但し脚力のある人にとってはすぐに踏み切ってしまい
軽過ぎる組み合わせになる事もあります。
乗り手に合った最適なギアレシオが必要になります。
例えばフロント36t、リア21tの組み合わせで
丁度良い重さになった自転車で
さらにタイヤを600gのものから300gの軽量タイヤに交換した場合
慣性モーメントが下がりさらに楽になりますが
すると今までのフロント36t、リア21tでは軽くなり過ぎて
フロント36t、リア23tあるいはフロント36t、リア25tで
丁度良い乗り心地になる事も考えられます。
複数の要因が組み合わさって重さに影響する訳です。

 

オリジナルの鍵盤鉛
オリジナルの鍵盤鉛の配置です。
使われている鍵盤鉛は全て12mmです。
上3本が低音。中段3本が中音、下の3本が高音です。
いずれの音域も連続して隣り合う鍵盤です。
鉛の数や配置が隣の鍵盤とで違っているので
タッチが揃わなくなっています。
低音と中音で12mmの鉛が0個から2個と少ないので
FWはとても軽いです。その分BWは大きくなっています。
高音はアシストスプリングが無く、鍵盤鉛は2個から4個と
低音よりも多くの鉛が入っています。

鍵盤周りでは
バランスホールがガチガチにきついので再調整しました。
バランスホールを細綿棒にベンジンを付けて清掃すると真っ黒です。
前後のキーピンとキャプスタンは真っ黒に変色していたので磨き直し、
フロントピンにはプロテック プロルーブを塗布し
バランスピンにはプロテックMPL-1を塗っておきました。
フロントブッシングクロスには黒鉛がたっぷり塗ってあったので
ベンジンで落として、PTFEパウダーを塗布しておきます。

 

不要な鍵盤鉛を抜き出す
事前に外寄せで入っている鍵盤鉛を抜いておき
その状態でBW基準の鍵盤鉛調整を行います。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準で鍵盤鉛調整をした状態です。
上2鍵が低音側、下2鍵が中音側です。
タッチを軽くする方向の作業なので
必要に応じて外寄せで入っていた鍵盤鉛は事前に抜いて
内側(バランスピン側)に寄せて鍵盤鉛を配置しています。
隣合う鍵盤で鉛の配置や数が極端に違わないようにするとタッチ感が揃います。
例えば今回の場合BWは43gまでしか下げられませんが
鍵盤鉛を内側に配置することで慣性モーメントを小さく出来るので
その分タッチを軽くすることが出来ます。
これもスポーツ自転車に乗る方であれば実体験として分かると思いますが
自転車の走りを軽くしようとした場合
フレームやハンドル、サドル等を軽量なものに換えるよりも
タイヤを軽量なものに交換すると、体感出来るくらい走りが軽くなります。
これはタイヤが回転するパーツの最も外側にあるからです。
支点はハブ軸で、途中スポークを介してリムがあり、
チューブがあって、最も外側にあるのがタイヤです。
慣性モーメントは質量×支点からの距離の二乗で効いてきますから
自転車の走りを軽くしたいのならば
支点から最も遠くにあるタイヤ、チューブ、リムを
今より軽いものにするのが効果的です。
これを「鍵盤鉛とバランスピン」「ハンマーとシャンクセンター」の関係で考えてみると...

 

そして本日、作業を終えたアクションを納品してきました。
事前整調を終えたアクションをセットして
音を出した瞬間「軽っ!」というのが第一印象。
元々のBW50g近いタッチ感を指先が覚えているので
今回BWは43gまでしか下げられなかった訳ですが
大分楽に弾く事が出来ます。
BWが下げられない分、慣性モーメントを下げているのが
地味に効いてきている印象です。
お客様に試弾して頂き、無事にOKを貰って作業完了です。

 

グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

カワイKG-3Nのタッチウエイトマネジメント

データ採集
Eメールでタッチウエイトマネジメント作業をご依頼頂きました。
ピアノはカワイのグランドピアノ KG-3Nです。

本日無事に仕上ったアクションを納品しました。
お客様の感想は
「全然違いますね、助かります!」
との事でとても喜んで頂きました。

 

以下作業の詳細です。

 

 

お客様曰く購入店の調律師さんに鍵盤が重いことを訴えたが
「カワイはこういうものです」と言って取り合ってもらえなかったという事です。

実際にお伺いして弾かせてもらうと
確かにタッチはかなり重量級でした。

さっそくアクションをお預かりして
「中村式タッチウエイトマネジメント」で標準的なタッチになるよう調整します。

 

オリジナルHSW
オリジナルのHSWスマートチャート。

低音は指標7.5から指標9の間でばらついていて
中・高音と比べると全体に軽めです。
中音からぐっと重くなり
中音から高音まで指標9から指標10の間でバラツキがあります。
例えば低音と中音の境目はHSWが0.7gも違うので
当然タッチも音色も繋がりません。
全体を見渡して、指標9でなめらかに揃える事にします。

 

2g重りによるSRは
低音6.75、中音6.75、高音6.5 でした。

6mm治具によるARは
低音が6、中音が5.75、高音が5.66 でした。

ハンマーシャンクフレンジとウイペンフレンジはトルクが大きく
重いところで6gから7g程度あります。
K社のプラスチックフレンジはスティック処理が欠かせません。

 

サンプル音の平衡等式
オリジナルのサンプル音のデータを採集し平衡等式を作成します。

BWは50g前後とかなり重め。
FWはシーリング値マイナス3gよりもさらに小さいものや
シーリング値マイナス3g程度のもの、
シーリング値を超えている鍵盤など混在しています。

KRは0.5から0.51。

HSWはスマートチャートを作成した通り
低音が指標7.5から指標9で88鍵全体で見ると軽め
中音と高音が重めで、指標9から指標10。

SRは6.1から6.4で高め。

 

作業の方向性としては
BWが50g前後とかなり重いので
BWは標準的な重さ38gを目標に設定。

FWはシーリング値を超えない範囲とする。

HSWは指標9でなめらかに揃える。

SRが高めなので2段階下げる

実際に弾いている時の重さは
慣性モーメントの影響が大きいので
最後に行う鍵盤鉛調整で鍵盤鉛を内側に移して
鍵盤が動きやすい配置にする。

以上のような見立てになりました。

 

C4の平衡等式
オリジナルのC4(40Key)の平衡等式を使って作業をシミュレーションします。

HSWは指標9で揃えることにしましたが
C4はもともと指標9なのでこのまま変更なしです。

パンチングの半カットでSRを0.4下げると仮定し
HSWが10.5gなのでBWは4g軽くなります。

ヒールへのシムの挿入でSRを0.4下げて
BWがさらに4g軽くなります。

最後にBW基準の鍵盤鉛調整行いBWを38gにすると
FWはシーリング値マイナス1.8gになりました。
なんとか弾けるピアノにはなりそうです。

 

FW比較計算
C4(40Key)の鍵盤鉛の配置をシミュレーションします。
この鍵盤に限って言えば、FWはシーリング値マイナス2.8gで
FWに限って言えばとりわけ悪い数値でもありません。
それでも実際に弾いてみて鍵盤が重く感じるのは
BWが大きすぎる事、レシオが高過ぎること、
慣性モーメントが大きい事などが影響しているからだと思われます。

試行錯誤した後、C行の効率的作業を採用します。
もともと入っている外側の大鉛を抜いて
内側に14mmと10mmの鉛を追加する事で
BW38g、FWシーリング値マイナス、
そして慣性モーメントを小さくする事が出来ます。
軽くしたいだけならばもっと鉛を内側に寄せた配置も可能ですが
それが弾きやすいタッチかというと、そうとは限りません。
そこでCoGの数値も気にしながら配置したところ
最終的にCoGが0.428になる位置に決まりました。

 

BWと慣性モーメント
最終的にBWがオリジナルから19パーセント減、
慣性モーメントは4.8パーセント減という結果になりました。

 

HSW調整後
HSWの調整後。
赤が調整後、黒がオリジナルです。
指標9でなめらかに揃えました。
低音は中音と高音に比べ0.2g軽いので
BW基準の鍵盤鉛調整をする時に
低音を僅かに重めにする事で中・高音とのバランスをとるようにします。

HSWの調整と平行して、スティック処理(センターピン交換、トルク調整)、
ローラーのブラシ掛け(黒鉛を除去)、
そしてテールに溝がまったく入っていなかったのでスカッチを入れました。

ウイペンはプラ製のウイペンフレンジがスティック気味でしたので
センターピン交換をし、同時にシムの挿入を済ませ、
サポートトップがザラザラだったのでなめして
レペティションスプリングの頭が当たる部分も磨き直し、
ヒールクロスの汚れをベンジンで落としテフロンを施工しておきました。

 

高音の鍵盤鉛
オリジナルの次高音の鍵盤鉛です。
支点の前後に鉛を入れてあるので
慣性モーメントが大きくなりタッチが重くなってしまっています。
次高音の数鍵だけ、何故か前後に鉛が入れてありました。
前後とも抜いて、手前だけに入れます。

 

鍵盤鉛抜き治具
某Sさんに見せてもらったものを参考に
鍵盤鉛を抜く際に使う治具を作ってみました。

 

鍵盤鉛を抜く
外側に入っている鉛はタッチを重くするので
事前に全て抜いてしまいます。
今回作った治具が活躍してくれて作業はサクサク進みます。

 

鍵盤鉛の位置決め
一番外側の鉛を抜いた状態で
BW基準の鍵盤鉛調整を行い
新たに鉛を入れる位置を決めていきます。
事前にヒールへのシムの挿入と
パンチングの半カットも済ませてあります。
シミュレーションに沿って入れていきますが
この時気をつけたいのは
隣同士の鍵盤で鉛の配置は同じ傾向で入れるという点です。
同じBW、同じようなFWになるにしても
隣の鍵盤と鉛の配置が極端に違うとタッチが揃わなくなるので
そのあたりも考慮して位置決めをします。

 

鍵盤鉛詰め
一番外側の鉛を抜いて
内側に寄せて鍵盤鉛を入れ直しました。
鍵盤が動きやすくなるので
トリルや連打、速いパッセージなどが
だいぶ弾きやすくなります。

 

グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
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カワイKG-6Cのタッチウエイトマネジメント

ウイペンアシストスプリング
非常にタッチの重いカワイのグランドピアノ
KG-6Cのアクションをお預かりして
「タッチウエイトマネジメント」作業を行いました。

昭和49年納品のピアノで、お客様曰く
「少しでも軽くしたいに尽きる...」との事です。

先日無事納品と調整を行い、お客様に弾いてみて頂いた感想は
「良い感じです!結構変わるもんですね」と喜んで頂きました。

今回行った作業を以下の通りです。
BWは軽い鍵盤でも46.5g、
重い鍵盤ではBW55gもあって、とても弾ける重さではありません。
Fは10.5から20。
SRは低音7.5、中音7.75、高音7.5でかなり高め。
ARは低音6.6、中音と高音が6.1。
マジックラインは許容範囲でした。
ウイペンフレンジはプラ製で若干スティックぎみです。
その他フレンジは木製で、
お客様がある程度湿度管理されているようなのでスティックはありません。
ウイペンにはアシストスプリングが付いていて
低音から次高音までは強力にスプリングが効かせてあり
最高音部はスプリングをまったく効かせていないセッティングになっています。
鍵盤鉛は9mmの鉛が低音で1個から4個手前側に入っていて
中音は鉛が入っていなかったり、
アップライトのようにバランス部の後ろ側に1個から2個、
高音も後ろ側に2個から3個の鉛が入っています。
この鍵盤鉛の配置ではどうにもタッチが重くなってしまいます。

レシオが高いので、あがき10.0mmで
打弦距離が49mmにしてあるのですが
それでもまだ働きが大き過ぎる状態です。
ここから中村式タッチウエイトマネジメントを利用して
とてつもなく鍵盤の重い状態を 標準的な重さBW38gになるよう調整していきます。

 
HSW
オリジナル状態のHSW。
低音は重く指標9から指標10.5付近でバラツキが大きく
中音から高音は指標7から指標9でバラツキあり。

 
HSW調整後 HSW調整後(赤)。
指標9でバラツキの無いよう揃えました。

 

 

アシストスプリング
ウイペンにはアシストスプリングが付いています。
アシストスプリングはこのまま生かす方向で調整も出来ますし
取り外してしまう選択もあります。
せっかく付いている部品なので生かすのもアリですが
今回は取り外す事にしました。
理由は弾いていてスプリングのバネ感がタッチに感じられ
タッチにダイレクト感が無くなってしまうので
スッキリしたタッチにする為に取り外す事にしました。

 
アシストスプリングの取外し アシストスプリングを全て取り外す
アシストスプリングを全て取外しました。
ウイペン周りではその他に
フレンジがプラ製でスティックぎみとなっているので
全てトルク調整しました。
サポートトップの黒鉛のザラツキをなめして
潤滑の為に塗られたヒールクロスの黒鉛もベンジンで落とし
代わりにPTFEパウダーを施工しておきました。

 
ヒールにシムを挿入
ウイペンを外したついでに ヒールにシムを挿入しSRを一段階下げておきます。

 
パンチングの接着
鍵盤底部に接着剤をつけてから
バックチェックに重りをかけて後方加重で乾くのを待ちます。
乾いてからパンチングを半カットしSRをもう一段階下げます。

 
鍵盤鉛の配置
上から一段目、二段目が低音で9mmの鉛が2個。
三段目から五段目までが中音で、
鉛が入っていなかったり、アップライトのように後ろ側に入っています。
六段目、七段目は高音で、やはり後ろ側に鉛が入っています。
サイズはいずれも9mmで、FWが小さいかマイナスなので
BWは非常に大きくなっています。
低音の一番外側の鉛と 中音と高音の後ろ側の鉛は全部必要ないので抜いてしまいます。

 
鍵盤鉛を抜く
不要な鍵盤鉛を全て抜き出しました。
写真を省略しますが、この他に Fを下げるための作業を各部に行っています。

 
鍵盤鉛の位置決め
HSWを揃え、SRを2段階下げて、必要のない鍵盤鉛を抜いてから
新たな鍵盤鉛の位置をBW基準で決めていきます。 BWは標準的な重さ38gです。

 
鍵盤穴開け
位置決めしたところに穴開けしていきます。

 

 

新しい鍵盤鉛の配置
新しい鍵盤鉛の配置です。
タッチを軽くする方向の作業なので
鍵盤鉛を内側に寄せて入れ、動的重さも軽くなるようにしています。
SRを2段階下げてから配置しているので 最小限の鍵盤鉛で済みます。

 

レシオが下がったので
49mmだった打弦距離は46mmにして、あがき10.0mmで
ちょうど良い働きが出るようになりました。

 

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C1のハンマー交換と簡易タッチウエイトマネジメント

ヤマハC1
ヤマハの小型グランドピアノC1のハンマー交換
簡易タッチウエイトマネジメント作業を行いました。

平成9年納品の製造番号551XXXXで
まだまだパーツの交換など必要ないピアノだったのですが...

 

下手なファイリング
ファイリングの必要のないピアノでしたが
誰かがアバンギャルドなファイリングをしてしまいました。
もの凄く大胆にがっつり剥いてしまっていて
ハンマーフェルトはボソボソに...

 

ハンマーファイリングの悪い例
近くでみると傾いてファイリングされているのが分かります...
ちなみに正面から見ても傾いてファイリングされているので
あらゆる方向からみて3Dに傾いて剥かれています。
しかもハンマーによって傾き具合もバラバラなのです...
そのためハンマーは3本の弦を同時に叩かず
まともに鳴ってません。

取り急ぎこちらでファイリングし直しましたが
削られ過ぎたハンマーはフェルトの厚みが無く
特に高音セクションはベンベン、ペチペチとした音が出ます。
もともと高音部の弦が断線しやすいピアノでしたが
ハンマーのクッションが無くなってしまい
さらに断線しやすくなっています。

このハンマーはもう限界なので
ハンマー交換をすることに。
今回は某Sさんにお願いして
研修をかねてハンマー交換しました。

 

ハンマーヘッドの穴開け

ハンマーのテーパー加工

ハンマーのテール加工

ハンマー交換
今回はシャンクはオリジナルを使い
ハンマーヘッドだけ交換しました。

ハンマーヘッドを交換したアクションを事務所に持ち帰って
若干の修正をしました。
このヤマハC1、BW43gもありタッチが重いです。
お客様も鍵盤の重さを気にしていたのでタッチウエイトを調整しますが
今回はいつものような精密な調整ではなく
簡易タッチウエイトマネジメントで作業します。
標準的な重さBW38gとなるよう調整していきます。

 

 

ハンマーローラーナックル
ローラーナックルはオリジナルのものににシムを入れて使うか
新しいものに交換するか迷いましたが
結局新しいものに交換することにしました。

 

古いローラーナックル
オリジナルのローラーを取り外して

 

ローラーナックル交換
新しいローラーナックルに交換。
スキンの流れの方向と接着に注意して取付けます。

 

 

WNGキャプスタン
簡易タッチウエイトマネジメントと言いつつ
オリジナルの重たいキャプスタンを
Wessell, Nickel & Gross(WNG)の超軽量キャプスタンに交換します。

 

キャプスタンの下穴開け
WNGのキャプスタンはボルトオンで付け替え出来るサイズもありますが
手元にあるのがオールドスタインウェイ用の
径の太いものなので、下穴を開けます。

 

キャプスタンインストーラー

WNGキャプスタンに交換
キャプスタンがWNGのものに交換されました。
軽量なだけでなく低フリクションなのがいいですね。

 

バランスパンチングの接着
SRを一段階下げるのに
バランスパンチングを接着します。

 

バランスパンチングクロスの半カット
バランスパンチングクロスを半カットしました。

 

ウイペンヒールにシム挿入
ヒールへのシム挿入で
SRをもう一段階下げます。

 

鍵盤鉛を抜く
鍵盤の外側に配置された鍵盤鉛がタッチを重くするので
事前に抜き出します。

 

鍵盤穴開け
BW38gとなる新たな鉛位置を決めてから
鍵盤に穴開けをします。

 

新たな鍵盤鉛の配置
新たに内側に鍵盤鉛が入りました。

 

バランスホールの掃除
前後キーピンを磨き
バランスホールを掃除します。
フロントブッシングクロスは掃除してから
フェルトトリートメントで厚みを復活させました。
すり減ったブッシングクロスは貼り替えるしかありませんが
比較的新しいクロスで潰れただけの状態であれば
膨らます方法もあります。

 

そして本日アクションを納品しました。
高音の打弦点がずれていないかと心配でしたが
Sさんによって高音ハンマーの打弦点は正確に出ていて一安心です。
交換前の安っぽい音がピアノらしい響きに復活し
タッチも標準的な重さになり
とても弾きやすいC1になりました。

Sさんに教えてもらった断線対策も行い
これで今後の断線が減るといいのですが
経過を見ていきたいと思います。

 

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ヤマハC6のタッチウエイトマネジメント

ヤマハC6
タッチが重いので軽くして欲しいというご依頼でアクションをお預かりしました。
ピアノはヤマハC6、製番は 557XXXX です。(平成10年納品)

 

慢性的に湿度の高い戸建の1Fに置かれています。
諸事情で数年空き家にしていたそうで
除湿されることなく置かれていて湿気漬けになっていたようです。
しばらく放置していたピアノを子供さんがこれから使おうということで
弾いてみたところ鍵盤が重くて弾きにくいということで
中村式タッチウエイトマネジメントで調整する事になりました。

 

オリジナルのサンプル
サンプルキーで現状を確認します。
BWはバラツキがありますが40g前後で思ったほど重くはありません。
Fは14から20とかなり大きめ。
HSWは指標8から指標9でそれほど重くありません。
SRは6.0から6.6と高め傾向。
KRは0.5から0.51で問題無し。
FWは全てシーリング値を超えています。

2g重りによるSRは低音6.75、中音6.25、高音5.75
6mm治具でのARは低音6.0、中音5.5、高音5.5
シャンクフレンジはスティック傾向で最大で9g(何故かウイペン周りは3g以下で問題無し)
鍵盤バランスホールはかなりきつ目(要鍵盤調整)
鍵盤前後ブッシングクロスは正常ですが、フロントの中音域で若干ガタ有り。

C4(40key)を3要素関連表で確認してみると
HSWが指標8で、SRが6.3の時
シーリング値マイナス3gを達成するには
BWは45gになるとあります。
しかし実際のBWは40.5gですので
鍵盤鉛が多く入れているか、外側に入れて
BW40.5gにしているという事になります。

 

HSWオリジナル
オリジナルのHSWスマートチャートです。
低音は指標9付近。
中音ミドルエンドは指標7といきなり軽くなり、その後は指標8付近。
最高音は指標7から指標8付近でバラツキが大きいです。

 

このピアノのタッチの重さは
湿気でのスティックによるところが大きいので
作業の方向性としては
・シャンクフレンジのセンターピン交換を行いトルク調整する
・鍵盤調整(バランスホール)
・HSWは指標8で均す
・SRが高めなので低くする
・BWは標準的な重さ38g程度にする
・FWをシーリング値マイナスにする
・Fを下げる

この内容で調整することにします。

 

サンプルキーでのシミュレーション
C4(40key)でシミュレーションしてみます。
HSWは指標8なのでこのままでいきます。
SRはバランスパンチングとウイペンヒールの両方で2段階下げますが
パンチングは半カットせずに1/4カット、2/5カット等を利用して
SRを0.2程度下げることを想定します。
ヒールへのシム挿入でSRは0.4下がるとしてHSWは10.0なので
BWは4g軽くなります。
パンチング部分でSRを0.2下げたと仮定して
この部分で2g軽くなります。
ここまでで下がり過ぎたBWを鍵盤鉛調整でBW37.5gに戻し
FWはシーリング値マイナス2gを達成出来ました。

 

HSW調整後
HSW調整後。
指標8でなめらかに揃いました。
これによりタッチが揃うと同時に、音色のバラツキも揃います。

 

FW比較
鍵盤鉛の配置をシミュレーションします。(c4)
タッチを軽くする方向の作業なので外側222mmにある14mmの鉛は抜きます。
新たに144mmと92mmにワンサイズ小さい12mmの鉛を追加すると
目標FWを満たし、オリジナルよりも慣性モーメントが小さくなり
CoGが0.432と理想値に近づく結果になりました。
CoGを考慮しないならば、もっと慣性モーメント値を小さく出来る
鉛の配置もありますが、今回は出来るだけCoGも理想値に寄せるようにしています。

 

BWと慣性モーメント
最終的にBWは37.5gになりオリジナルの40.5gから7パーセント減。
慣性モーメントは4.5パーセント小さくなる結果になりました。

 

センターピン交換
HSW調整と同時進行でシャンクフレンジのセンターピン交換を行い
トルクを3gで調整しました。
全鍵のフレンジトルク、HSWが揃いましたので
タッチと音色のバラツキが揃ってくる事が期待出来ます。

 

キーピン磨き
前後キーピンは黒ずんでザラツキやベタつきがあるので
鏡面に磨いておきます。
鍵盤フロントブッシングは中音域で左右ガタが少し大きいので
フェルトトリートメントを塗布してからコテで軽く熱することで
クロスの厚みを戻しておきました。
鍵盤のバランスホールと前後ブッシングの汚れも出来る限り落としておき
キーピンには潤滑剤を塗布し、鍵盤フロントブッシングクロスには
PTFEパウダーを塗布しました。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準での鍵盤鉛調整後。
もともと入っていた外側の14mmの鉛を抜いて
新たに内側に12mmの鉛が入りました。

 

整調
ピアノ本体にアクションをセットして整調を済ませ完了です。

標準的な重さBW38gがとても心地よく、とても弾きやすいピアノになりました。

 

除湿器
そして現在は、除湿器(三菱MJ-180MX)を湿度50パーセント設定にして
エアコンも併用し常時運転して頂いているので
今後はスティックの心配もなさそうです。

 

渡辺ピアノ調律事務所
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