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鍵盤が戻らなかったり、音が出なかったりの修理

FUKUYAMA PIANO ROSEN RO500
フクヤマピアノ、ローゼンRO500をお使いの方から
メールで修理のご依頼を頂戴しました。

50年ほど前に納品された当時は綺麗な音色のピアノだったけど
今はかつての響きも劣化してしまったようだと...
今一番困っているのが音が出にくかったり
鍵盤が戻りにくかったりすることだそうです。
今のピアノの状態を確認させていただくために
調律を兼ねてお伺いし、アクションをお預かりしてきました。

調律カード
昭和44年納品なので、私と同年代、同級生ですね。

このピアノの音が出なかったり、鍵盤が戻りにくいのは

  • アクションの回転部分の動きが悪い(「スティック」といいます)
  • スプーンがザラザラでレバークロスに穴が空いてしまい動きが悪い

この2つが原因です。

アクションの修理

ハンマーアッセンブリー
これはハンマーアッセンブリー
ある部品に関連するひとかたまりをアッセンブリーといいます。
ハンマーに関連する部品のひとかたまりなのでハンマーアッセンブリー。

一番上の卵型のフェルトが弦を打つハンマーヘッド
ハンマーヘッドはハンマーウッドという木の芯にハンマーフェルトが巻き付けてあります。
ハンマーヘッドから長く伸びている木の棒はハンマーシャンク
ハンマーシャンクの下に植わっている部品がバット
バットを回転させるためにセンターピンでジョイントされているのがバットフレンジです。

ハンマーの回転軸はバットフレンジ。
フレンジの回転部分の中心にはセンターピンという金属製のピンが通っていて
センターピンを回転の中心軸としてハンマーは回転運動をし弦を打ちます。

湿気の多い環境に置かれているピアノは
フェルト・クロス・木が湿気で膨張します。
センターピンを取り巻いているブッシングクロスが湿気を吸うと
クロスが膨らんでセンターピンをギュッと締め付けてしまうことになり
その結果、フレンジの回転運動が上手く出来なくなってしまうんですね。
この状態をスティックといいます。

本来スプリングの力でもとの位置に戻るはずが
ガチガチに固まっています...

ハンマーバットのセンターピン
これを直す場合は、今付いているセンターピンを抜いて
膨張して穴が小さくなったブッシングクロスを削って穴を広げ
新しいセンターピンを挿入する、そんな処置をします。
ピアノは88鍵ありますので、ハンマーも88ヶ所。
なのでハンマーバットのセンターピンを88本交換する作業となります。

ハンマーバットのセンターピンを交換するだけで済むならまだ楽なのですが
ハンマーの下にはウイペンアッセンブリーがあって、そこにセンターピンが2本。
ハンマーの前にはダンパーがあって、そこに1本。
トータルで300本近いセンターピンを交換する作業が必要になるのです。
皆さま湿気にはくれぐれもご注意を...

ハンマーバットのセンターピン交換
コツコツとハンマーバットのセンターピン交換を行います。

バットスキンのブラシ掛け
バットのセンターピン交換と同時に
バットスキンをブラシ掛けしてスキンに付着した黒鉛を落とします。
スキンについた黒鉛はフリクションを大きくするので。

ハンマーの弦溝
ハンマーヘッドの先端には
繰り返し弦を叩いたことによる弦溝(げんみぞ)が入っています。

ハンマーの弦溝は悪影響が
ハンマーは弦を点で叩くと、倍音の多い綺麗な音色が出ます。
しかし繰り返し弦を叩くと、少しずつハンマーフェルトは弦で押し潰され
深い弦溝になっていきます。
弦溝が入ったところは点ではなく線になってしまうので
弦と接する部分が多くなり綺麗な音が出なくなってしまうのです。
さらに弦溝のついたところは、フェルトが押し潰され硬くなっているので
硬いハンマーフェルトで弦を打つことになって、やはり綺麗な響きが出なくなります。

ハンマーのファイリング
これを解消する手段としてハンマーのファイリングという作業があります。
ハンマーのフェルトをひと剥きして弦溝を取り去り
同時にハンマーの形を卵型になるよう整えます。
一見するとこの作業で一件落着と思われるかもしれませんが
メリットだけでなくデメリットもあります。
その事については別のページに書いております。
↓↓↓

●関連リンク : ハンマーのファイリングってどんな作業?何のためにするの?

ウイペンとジェックのセンターピン交換
ウイペンアッセンブリーも
ウイペンとジャックのセンターピンを全て交換しました。
センターピンの交換は同じなので割愛しますが
嵌合を優先するところがバットと違います。
ヒールクロスはフェルトトリートメントで潰れたクロスのへこみを復活させてから
PTFEパウダーを塗布しておきます。

センターレールに溜まった埃
ハンマーアッセンブリーとウイペンアッセンブリーが取り外されると
センターレール周りが露わになり
フェルトや埃が溜まっているのが確認できますね。

掃除されたセンターレール
掃除する絶好のチャンスなので綺麗に掃除しておきます。

ウイペンの上に溜まった白い粉
アクションの裏側、ウイペンの上に白いクロスの粉が溜まっています。
こうなっていたら修理の合図です。

ザラザラになったダンパースプーン
ダンパースプーンの頭にスラッジが溜まりザラザラになっています。
ザラついたスプーンは、弾くたびにレバークロスを削り
せっせとクロスに穴を掘ります。

削られたダンパーレバークロス
これが削られたダンパーレバークロスです。
クロスの下部、スプーンとの接点は見事に穴が掘られてます。
ここまで穴が深くなるとダンパースプーンとレバークロスの
接点での動きに影響が出てしまいます。
フレンジのスティックとレバークロスの穴のダブルパンチで
音が出にくかったり、鍵盤が戻りにくかったりしたという訳です。

レバークロスの上部にも削られた箇所が確認できますね。
こちらはダンパーロッドとの接点で
スプーンと同様にロッドにスラッジが溜まり
何度も擦れて削られてしまったのです。

ザラザラのダンパーロッド
スラッジが溜まりザラザラになったダンパーロッド。
ダンパーペダルを踏むたびにレバークロスを削る悪循環に陥っています。

ダンパーのセンターピン交換
ダンパーアッセンブリーの修理。
ダンパーもスティックしているのでセンターピンを交換して
ダンパーフレンジのトルクを適正トルクに戻します。

レバーパンチングの掃除
レバーパンチングクロスとスプリングの接点。
クリーニングしておいたほうがいい部分です。

ダンパーレバークロスをアイロンで剥がす
古いダンパーレバークロスをアイロンで剥がします。

新しいダンパーレバークロスをカット
新しいダンパーレバークロスをカットします。

新旧レバークロスとダンパーフェルト
一目瞭然ですが
左側が古いレバークロスとダンパーフェルト。
右側が新しく用意したものです。
ダンパーはセンターピンの交換とレバークロスの貼り替えだけの予定でしたが
アクションのピックアップに伺った時に、再度音出ししてみたところ
平止めのダンパーが古く硬くなっていて、止音の際に「ムニャっ」と鳴くので
平止めのフェルトも交換することにしました。

ダンパーの修理
ダンパーが正く機能するように修理しました。

ダンパースプーンの磨き直し
ザラザラだったダンパースプーンの頭をツルツルに磨き直します。

ダンパーロッドの磨き直し
ダンパーロッドもツルツルに。

アクションの納品と調整

マフラー金具のゴムキャップの劣化
マフラー金具のゴムキャップが劣化・消耗で切れていました。

新しいゴムキャップに交換
新しいゴムキャップに交換しておきました。

ハンマー弦合わせ
ハンマーをファイリングしたことで可能になるのがハンマーの弦合わせ。
ハンマーのセンターで弦を叩くように調整します。
センターで打弦すると、とても良い鳴りになります。
位置がずれているピアノも多いです。

後付けされた鍵盤鉛
前任の調律師さんが後付けしたタッチ調整鉛が
鍵盤の後ろ側に貼ってありますが必要がないので取り外しました。
後付けされた鍵盤鉛を取り外す
鉛が増えるとタッチが重くなるのと
鍵盤が戻る時にガツンと突き上げるようになってしまうので。

バランスレールを高くする
経年変化で鍵盤の高さが1mm程度低くなっていたので
キーレールバールでキーフレームを持ち上げ
スペーサーを入れて、ならしを高くします。
ざっくり上げてから、パンチングペーパーで高さを綺麗に揃えます。

鍵盤あがき
鍵盤の高さを決めたら、鍵盤が降りる寸法を調整します。
パンチングペーパーという丸いドーナッツ型の紙を
出し入れして鍵盤の深さを決めます。

ダンパースプーン左右調整
ダンパースプーン左右調整。
ダンパースプーンの掛かり調整(前後調整)というのは
整調の工程にもあるので誰でも行っていると思います。
ダンパースプーン左右調整がされていないピアノが多いです。
おそらく整調工程に存在しないからなのですが
よくよく考えてみればダンパーレバーのセンターに
スプーンの頭が来ていた方が効率が良いのは想像がつくと思います。
キャプスタンの位置決めと同じですね。

ペダルの錆
整調、整音が終わり、錆びた真鍮部品を磨きます。
ペダルもいい具合に錆びてますね。

ペダル磨き
ペダルをピカピカに!
もちろんネームや錠前も磨きました。

調整が終わり試弾
調整が終わりお客様に仕上がりを確認していただいたら
「良い音です」としみじみと仰ったのがとても印象的でした。
私も少し離れたところで音を聴いておりましたが
明らかに現行の国産メーカーのピアノより良い音色が出ていました。
ひとまず任務完了ですね。
次回の定期調律で経過を拝見させていただきます。

防音エコパネル
今回、お客様のご希望で
「防音エコパネル」という防音パネルも取り付けました。
マンションなので、周囲の方に迷惑ではないかとどうしても気になってしまうとの事。
あまり大きな音を出したくない時間帯は防音エコパネルがしっかり仕事してくれます。
しっかり良い音を楽しみたい場面では、屋根を開けることで対応できますので
状況にあわせて屋根で調整していただければと。

頂き物のお菓子
O様、お菓子ありがとうございます!

ピアノの「鍵盤の戻りが悪い・戻らない」
「音が出にくい・出ない」といった症状でお困りでしたら まずはご相談ください!

関連リンク : ピアノの調律を安定させる為に ~湿度管理~

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The author is Masami Watanabe

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お気軽に渡辺宛 info@piano-tokyo.jp までお問い合せください。

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