ヤマハW-103の修理・調整

定期的に調律なさっている常連さんのヤマハ W-103 ですが高校生のお嬢さんの要求レベルが上がって来たのでピアノのほうも精度の高い調整で弾きやすくなるよう、調整します。
このピアノは弾いてみた感じとして鍵盤が若干重く、少しレスポンスが悪いようです。鍵盤の重さを計ってみたところ55g から 63g という重さです。鍵盤によって重さのばらつきが目立ちます。55g を超えてくると少々重たく感じると思いますのでこれは現在の標準的な重さ 50g 程度に変更します。無作為に取り外したフレンジの動きもチェックしてみましたがスティックぎみのフレンジが見受けられますのでこれらもセンターピンを交換して適正トルクにします。

バットフレンジのセンターピンから交換していきます。

現状では、横にずれて飛び出したセンターピンがあったりトルク過多、トルク低下しているフレンジが混在しています。

元のセンターピンを抜きます。
下が元々のセンターピンで上が新しいセンターピンです。古いセンターピンには腐食・劣化が見られます。

ブッシングクロスにリーマーを通して適正トルクになるよう繰り返し作業します。

削ったブッシングクロスのカスを残さないようブロワーで飛ばします。
最適なトルクになったら新しいセンターピンをセットし

センターピンカッターでカットします。

新しいセンターピンがセットされました。


残りのバットのセンターピン87本も同様に全て交換します。

仕上げにバットのセンターピンに推奨されている潤滑剤を僅かに塗布しておきます。
ピアノには、様々な潤滑剤が使われますが適材適所で使い分ける必要があってその箇所に推奨されないものを使うと思ったような効果が得られないので注意しなければなりません。

この時点でハンマーに針を下入れしておきます。

大分弦溝が付いてきているのと針入れした箇所が膨張し変形するのでハンマーをファイリングしておきます。

今回はシューシャインしやすいマイクロフィニッシングフィルムを使います。

左側がファイリング後、右側がファイリング前です。

ハンマーの形状はこのようにしました。


ヤマハのアップライトピアノはバットフレンジコードがいずれ切れることが分かっていますので、まだしばらくはもちそうですがこの機会に全て交換してしまいます。

ジャックとウィペンのセンターピンも交換しておきます。
全て交換します。

ダンパースプーンを磨き直しロスを減らします。左が磨いた後、右が磨く前です。

磨いたスプーンに潤滑剤をコートします。

ダンパーのセンターピンも交換しておきます。

全て交換します。これで300本近い全てのセンターピンを交換しました。

ダンパーレバースプリングの汚れを取り除いて

潤滑剤を塗布しておきます。

コーヒーを飲みます...

ダンパーロッドの表面が荒れていて雑音の原因となるので


鍵盤のバランスとフロントで大分ガタが出ており横ぶれが酷いのでブッシングクロスを全て交換します。ブッシングクロスの接着には液体膠を使用します。

古いブッシングクロスをスチームを使って取り除いた後ブッシングインサーターを使ってキーブッシングクロスを通します。

バランス部に張駒をしておきます。

フロント部も。

余分な部分をカットします。

綺麗に仕上がりました。

スチームを当てて膨張したのでバランスホールを調整し直します。

フロントも。

黒鍵手前角の塗装の剥がれを塗り直しておきます。

ヤマハの鍵盤にはバリ、ささくれが多く隣の鍵盤をかすめて雑音を出す場合があるので取り除いておきます。

鍵盤とアクションが仕上がったらピアノ本体に戻して鍵盤鉛調整を行います。

1鍵ごと重さをはかって鉛を追加する位置決めをしていきます。

88鍵全ての位置決めが済んだら鉛を追加する為の穴をあけていきます。

綺麗にあきました。

専用のポンチで叩いて
鍵盤鉛が追加されました。

全ての鍵盤に鉛が追加されました。
鍵盤のダウンウェイトはbefore 55〜63gafter 48〜53g となりました。鍵盤全域が軽快になり、隣の鍵盤との重さの誤差がなくなりましたのでとても弾きやすいピアノにしあがりました。リフト値は、25g 前後確保してあります。鍵盤の手前側に追加された鉛がアップライト特有のピョコピョコしたタッチを和らげるのにも貢献しているようです。

まだまだ W-103 は頑張ってくれそうです。

P.S. Y様、蕎麦ありがとうございます。
渡辺ピアノ調律事務所