ヤマハC3のタッチウエイトマネジメント

ヤマハC3白鍵
ヤマハのグランドピアノ C3 のタッチウエイトマネジメントを行いました。

 

鍵盤が軽く弾き応えが無いので重くして欲しいというご依頼内容です。

 

調整後の作業結果を先にお伝えしますと
お客様に試弾頂いたところ
「追従性がよく、しっかり入る」
「受け止めてくれる、安定感がある」
「めちゃくちゃいいです、長年の悩みが解消されました」
と大変満足して頂けました。
何度も何度も打ち合わせをしたお陰で
弾き手の希望にピッタリのタッチウエイトに調整する事が出来ました。

 

それでは詳細について。

 

製造番号624XXXXで、納品が平成20年(2008年)。
前回作業したC3とほぼ同時期のピアノで
オリジナルのタッチウエイトもほぼ同じ。
同じ重さの鍵盤のピアノでも
弾き手が変わると感じ方も変わるもので
前回のお客様にとっては「重く感じるので軽くして欲しい」となり、
今回作業するお客様にとっては「軽く感じるので重くして欲しい」となります。
ピアノ使用者はプロのピアニストを目指している大学生の男性です。
演奏技術は上級者レベルです。

 

顧客がこのピアノのタッチに感じる事としては
・板を弾いているような感じを受ける
・とにかく弾き応えがない
・机の上でエアーピアノを弾いているよう
・今来てくれている調律師さんに何度も相談し調整してもらったが改善しない
等々です。

 

弾き手の要望は抽象的であるため分かり難く
何度もメールのやりとりをし
それでもまだ真意がはっきりしないので
お伺いしてピアノを拝見させて頂きながら直接打ち合わせをしました。

整調は問題なく、働きもしっかり出ています。
ダンパーストップレールが当たっているのではないかという懸念があったのですが
当たってはいないようですが、クリアランスがほぼ無く調整しました。

整音の状態もさほど悪くなく
次高音から最高音が少しうるさいかなという状態です。

 

お話させて頂く中で、結局のところ
このお客様にとっては鍵盤が軽過ぎるという事が分かってきました。

我々調律師は数多くのピアノに触れる機会がありますから
相対的にどのくらいの重さが標準だということが
知識としても体感でも分かっている訳ですが
お客様曰く、それほど多くのピアノに触れる事はないので
どのくらいの鍵盤の重さが標準で、自分のピアノの鍵盤の重さは
幾多あるピアノの中でどの辺りに位置するのか
いまひとつピンとこないとの事でした。
言われてみると、そんなものかなと妙に納得しました。
今お使いのC3のタッチは標準的なものより少し重めで
お客様にとってはそれでもまだ軽いようである旨お伝えすると
そうなのかとひとつ疑問が解消され安心なさったようです。
また時々某所で演奏する事があるベーゼンドルファーの鍵盤が重く
普段の練習でもそれに対応出来るようなタッチが良いという
本音を引き出す事も出来、直接お会いしての打ち合わせの大切さを痛感しました。

 

出来るだけ希望に近いタッチウエイトに調整するため
数鍵ごとにサンプルをつくって弾いて頂きました。

a. バランスパンチングを半カットしたものと置き換え
b. 半カットパンチングにくわえ、ハンマーに0.5gのクリップを付けたもの
c. 半カットパンチングにくわえ、ハンマーに1.4gのクリップを付けたもの
d. 半カットとクリップにくわえ、鍵盤の前後等距離に鍵盤鉛を仮止めしたもの

 

お客様が「これ好きかも」と仰ったのは「c.」でしたので
このタッチウエイトを再現する格好で作業する事になりました。

BWでいうと50gかそれ以上で、慣性モーメントもかなり大きくなっています。
サンプルを数鍵片手で弾く場合と
両手を使い実際に広い音域を演奏する場合とでは
体感出来るウエイトが違ってくる事を想定し
50gを超えるようなBWは必要ないと判断し
BWは50gとします。
また実際の作業ではハンマーの1.4g増量は難しいので
パンチングの半カットに加え、ヒールクロスへのスペーサー挿入も行い
鍵盤鉛調整の際に外側に鉛を配置することで
慣性モーメントを大きくする等して、サンプルを再現する事にします。

 

お客様からの要望で、いくつかのパーツを交換する事になりました。
・人工皮革のローラーナックルを本革に変更
・キャプスタンをスタインウェイ純正キャプスタンに変更
・フロントパンチングクロスをホワイトパンチングクロスに変更

これらの交換は先に済ませてから作業にはいります。
ローラーの交換でレシオが微妙に変わってしまう可能性がある事や
キャプスタンの重量が1g程度違うからです。
ローラーの交換は特にオリジナルと部品間寸法が変わらないよう注意して行います。

 

HSWチャート
オリジナルのHSWチャート。

低音は重く、特に中音との境目で指標11前後になっていて
出てくる音にもそれが現れています。
中音はもっとも弾かれる割り振り付近で指標8のハンマーがあり
低音との差があり過ぎるため軽く感じてしまう要因になっています。
次高音から最高音は、指標9から10でバラツキ有りですが
これはさほど問題があるように思われません。
中音が軽い事で、全体が軽いと感じさせてしまうと思われますので
全体を指標10で揃えてやると、中音も重くなり
全鍵を弾いたときに重さと音色のバラツキを感じなくなると思いますので
その方向でHSWを調整します。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナルのサンプル音での平衡等式。

BWは40gから45gで、普通の人が弾いたら十分に弾き応えがあり
人によっては重く感じることもありそうですが
今回は弾き手が上級者でありパワーもあるので
このウエイトでは軽く感じてしまうようです。

 

SRは5.6から6.0でまずまず標準。
2g重りでのSRは低音5.8、中音6.0、高音5.8。

FWは中音から高音はシーリング値マイナス2gから5g程度。
低音はシーリング値を超えていて
これは低音のハンマーの重さを鍵盤鉛でカバーしようとするためで、結果FWが大きくなっています。

KRは0.5でバラツキなし。

Fも標準もしくは小さめ。

6mm治具でのARは5.3
計算ARは4.6

アクションスプレッドは112.5mm。

シャンクフレンジのトルクは低音2.2gから3g、中音3gから4g、高音3g程度。
ウイペンフレンジのトルクは4g。

全体としてはさほど問題のないアクションのようです。

 

シミュレーション
C4(40key)でのシミュレーション。

HSWを0.5g増量し
ヒールのフレンジ側へのスペーサー挿入と
バランスパンチングの半カット(手前を残す)で
SRをそれぞれ0.4程度高くなると仮定し
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行い(この際、鍵盤鉛を外側に配置し慣性モーメントを大きくする)
BWは50gで、FWはシーリング値マイナス1.8gとなりました。

 

鍵盤テンプレート
慣性モーメントも変更しますので
鍵盤テンプレートを作成します。

 

FWと慣性モーメント
内側に入っている鍵盤鉛を抜いて
もう少し外側に鉛を追加する効率的作業を選択します。

 

BWと慣性モーメントの比較
BWはオリジナルの42gから50gへ19パーセント大きくなり
アクション全体での慣性モーメントは9.5パーセント大きくなるという結果になりました。

 

 

HSW調整
HSW調整。
指標10で綺麗に揃える事が出来ました。
中音が軽過ぎることもなくなり、
ハンマー鉛の増量分慣性モーメントも大きくなり
全体のタッチと音色が綺麗に揃う事が期待出来ます。

今回は鍵盤を重くする(SRを高くする)方向の作業なので
ウイペンヒールへのスペーサー挿入は
フレンジ側に寄せて入れます。

バランスパンチングも軽くする作業の時とは逆で
手前側を残して後ろ側半分をカットします。

 

鍵盤の鉛抜き
事前に内側の鍵盤鉛を抜いてしまいます。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準での鍵盤鉛調整。
白鍵はBW50gにして、
白鍵に比べ短い黒鍵が重く感じないように
黒鍵はBW49gにしました。

 

鍵盤の鉛詰め
新たに追加する鉛は外側に寄せて入れました。
これにより同じFWでも慣性モーメントは大きい状態になります。

 

タッチウエイトとは直接関係ありませんが
白鍵上面の先端の接着が剥がれている鍵盤が20鍵ほどあり
1鍵は完全に剥がれていましたので
これらを全て再接着しておきました。

また人工象牙の白鍵が黒く汚れ
表面がザラザラデコボコした状態でしたので
サンディングして表面をツルツルにし、真っ白に仕上げました。

 

作業後のSRは平衡等式でのシミュレーションと同じ結果となり
2g重りによるSRは6.3と高くなりました。

ARは意外と変化がなく5.3のままでした。

 

付帯作業として行ったのは

  • キャプスタンをスタインウェイ純正品に交換(研磨、潤滑済)
  • ローラーナックルを本革のものに交換
  • フロントパンチングをホワイトパンチングに交換
  • シャンクフレンジの(中音を中心に)トルク調整
  • バランスキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • フロントキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • キーバランスホールの汚れベタつき除去
  • 前後キーブッシングクロスの汚れ落としと潤滑
  • ヒールクロスの汚れ落としと潤滑
  • ジャックトップとサポートトップと裏側の黒鉛なめし
  • 人工象牙のざらつきと汚れを研磨修正
  • 白鍵サイド木部の汚れ落とし
  • 黒鍵手前の鉛を抜いた穴は黒鍵専用塗料を塗布
  • 黒鍵サイドの塗装の剥がれを黒鍵専用塗料で塗装
  • ハンマーファイリングを含む下整音処理(納品時再調整)
  • 下整調(納品時再調整)
  • etc

 
鍵盤が軽いので重くして欲しい
鍵盤が重いので軽くして欲しい

など、鍵盤の重さ(タッチウエイト)のお悩みご相談ください。

出先で簡単にとはいきませんが
アクションをしばらくお預かりさせて頂ければ
ご希望のタッチに調整します。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

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