ヤマハC6LAのタッチウエイトマネジメント

ヤマハC6LAのハンマーヘッド

ヤマハC6LAのオーナー様からメールで作業依頼が。
「せっかく購入したのにタッチが重くて弾く気にならない...」とのこと。
製造番号6093XXX なのでタッチの重たい年式であることと
同時にこのクラスになると鍵盤も長くなるので
慣性モーメントが大きくなり重たいのでしょう。
タッチウエイトマネジメント作業で軽くて弾きやすいピアノに調整していきます。


ジャック前後

前任の調律師さんに何度か
「鍵盤が重いので軽くしてほしい」と
何度か伝えていたようですが軽くならなかったとのこと。
ジャックをみると前に倒してありました。
ジャック位置を前にしてもタッチは軽くなりません...


ヤマハC6LAのHSW測定

まずはアクションの各部データ採集から。
HSWの測定は全鍵測定でも構いませんし
1鍵ごと、あるいは数鍵ごとでも傾向を知ることは出来ます。
私の場合は念の為というか性格上全鍵測定します...


C6LAのウイペンバランスウエイトの測定

こちらはWWの測定。
ウイペンは基本的に任意の1鍵でOK。


FWの測定

FWの測定。平衡等式を作成するのに必須。


ヤマハC6の鍵盤長比較

C6クラスになると、低音と高音でこんなに鍵盤の長さが違うんですね。
上が低音(1key)で下が高音(88key)です。


オリジナルのHSW

HSWを全鍵測定しました。
低音は指標9.5から指標10と重めで推移。
中音に入ると指標8に下がり、次高音まで同じような傾向。
最高音では指標10と重くなっています。
このように88鍵の中で重さの傾向が音域によって違うのは普通ですし
隣り合うハンマーで4g、5g重さに差があるのが一般的です。
このピアノでは、低音と中音の境目では7gもハンマーの重さが違っています。
これではタッチは揃う筈はないですし、音色も揃いません。



データ採集

各部のデータ採集を済ませたら平衡等式を作成し
現状把握と改善の可能性を施行します。


オリジナルでの平衡等式

C6LAオリジナル状態の平衡等式。
黒鍵こそBWは重いですが、白鍵だけでいえば寧ろそこまで重くないですね。
しかし実際弾いてみると重い。とくに低音は重い。
「BW = タッチウエイト」ではない、ということです。


3要素関連表

低音16keyのBWは40.5gで
BWだけで言えばそこまで重い訳ではなく標準です。
しかし実際に弾くと重い。
3要素関連表を確認すると分かりやすいです。
16keyはHSWが指標10で、SRは5.7。
これらが交差する数値はBW45g。
16keyをシーリング値マイナス3gとするにはBWは45gが適正ということに。
しかし実機の16keyはBW40.5g。
つまり鍵盤鉛をたくさん入れて、BW40.5gにしているということになります。
こうなってしまうと慣性モーメントが大きくなり
BWが標準であるにもかかわらず重たいタッチになってしまいます。
「BWこそがタッチウエイトである」ということの弊害ですね...

Fは低音から中音はまずまず。
中音から高音にかけて高め。

FWは低音でシーリング値を超えています。
中音から高音にかけてはシーリング値マイナス。

HSWは低音で指標9.5から指標10と重め。
中音から高音は指標8でまずまず。

SRは低音から中音で5.6から6.2。
許容範囲ですが結構バラついてるものですね。


C6LAの16keyでの事前シミュレーション

とりわけ重たい低音の鍵盤で平衡等式を利用してシミュレーション。
鍵盤は16Key。
F処理をして、Fを13.5gから11.5gに。
HSWを12.3gから11.8gへ5g減量。
これによりBWは40.5gから37.5gに下がります。
SRはパンチングカットで一段階のみ下げます。
5.7だったSRが5.4に。BWは37.5gから33.5gまで下がりました。
ラストに鍵盤鉛調整でBWを33.5gから38gまで上げると
FWは38.6gから34.1gに下がり
シーリング値マイナス3.4gとなり無理のないアクションになりそうです。


鍵盤テンプレート

慣性モーメントの試行に必要な鍵盤テンプレートを作成します。



FWと慣性モーメント比較計算

FW比較計算表 & 慣性モーメント(鍵盤)計算表

D行を採用。
タッチを重くする一番外側の鍵盤鉛を抜いて
新たに152mmの位置に12mmの鉛を追加。
40mmの位置に14mmの鉛を追加することにします。
CoG は0.474となりました。


最終BWと慣性モーメント


最終的にBWは40.5gから38gとなって
換算慣性モーメントは187,571gcm2から
171,716gcm2と8.5パーセント下がりました。


HSW調整後

HSW調整後のスマートチャート。
黒がオリジナルの状態。赤が調整後です。
指標9付近でばらつきの無いように仕上げました。


ハンマー鉛

軽いハンマーには鉛を入れます。


鉛の接着

ハンマー鉛は軽くかしめますが
緩むことがあるので瞬間接着剤を少量垂らして
スプレープライマーを吹きしっかり固定します。


パンチング接着

バランスパンチングクロスの半カットで
SRを一段階下げます。
パンチングを鍵盤底面に接着して
鍵盤ならし用の治具をバックチェックにかけて
後方荷重で乾くのを待ちます。
乾いたらホールのセンターでクロスをカットします。


キーピン磨き


前後キーピンも磨いておきます。
さほど古いピアノでもないですがかなり変色しているのは
このピアノ、湿度管理がされていなかった上に
音楽室のピアノにかけてあるような
分厚いピアノカバーがかけてあったからです...


バランスホールの掃除

バランスホールのクリーニング。
細麺棒にベンジンをつけてホール内をクルクルと。
ベタつく汚れが根こそぎ取れて
これだけでもかなりタッチがスッキリします。


鍵盤鉛を抜く

タッチを重くする外側の鉛を抜きます。


外側の鉛を抜いた鍵盤

外側の鉛が抜けました。


BW基準の鍵盤鉛調整

外側の鍵盤鉛を抜いた状態で
新たにBW基準で鍵盤鉛の位置を決めます。


新たな鍵盤鉛の位置

既存の鉛位置よりも内側に鍵盤鉛を入れて
軽いタッチを実現します。


鍵盤穴開け

位置決めした位置に穴開けをして鉛をかしめたら出来上がり。


ハンマー針刺し

タッチウエイトが軽く弾きやすくなったら
同時に音色も楽しんで欲しい。
「色気のある音」を目指してハンマーに針を下刺し。


ハンマーファイリング

針入れが終わったらファイリング。
弦溝を取り除くと同時に
ハンマーが卵型になるように整形します。
弦溝が付いているとハンマーが弦を「線」で打弦して上手くないのです。
ハンマーに丸みを持たせることで、弦と接触する面を少なくすると
良い音色になるんですね。


ベディングスクリュー

整調も一から見直しになりますが
スタートはベディングスクリューの出具合。
このピアノは2.5mm強、筬から出ていました。
こうなると鍵盤とアクション全体の位置が
設計上の高さより高くなってしまうので
その後いくら各部を基準寸法にしたところで上手くいきません。


ベディングスクリュー調整

ベディングスクリューを基準寸法まで引っ込めました。
納品して調律して、整調を見直して、
あらかじめおこなっていた整音の仕上げを行なって作業完了です。
1台のピアノをそこそこ良い状態にするのは意外と大変なのです...


ヤマハC6の作業完了

納品と調整が終わりお客様に早速試弾してもらいました。
結果は
「軽い!」
大満足。ヨカッタ。


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
メール  info@piano-tokyo.jp

ヤマハ C3AEのタッチウエイトマネジメント

ヤマハ C3AE

「低音の鍵盤が重くて左手が痛くなる」とメールで【精密タッチウエイトマネジメント】作業のご依頼がありました。ピアノはヤマハ C3AE 製番60005XX です。Y社のタッチは製番500万番台の途中から、現行のモデルに至るまでタッチ重め傾向が続いています。


ジャックが手前に寄せてある

前任の調律師さんにも「タッチを軽くしてほしい」とお願いしていたようで、ジャックがかなり手前に倒してありました...
いまだにタッチを軽くするためにジャックを手前に倒す技術者が居るようですが、残念ながらジャックを手前にしてもタッチは軽くなりません。
AR、SRもそうですが、とくにギアレシオがかなり変化してタッチは軽くなるどころか重くなってしまいます。


ローラー芯板とジャックの位置

横から見るとジャックが手前にセットされているのが分かります。
ジャックの奥側(赤ライン)はローラー芯板の奥側(白ライン)と重なるのが正しい位置です。アクションの構造的からみても、ジャックを手前にすると加速が得られない(パワーロス)ことになりタッチは重く感じられるようになってしまいます。
作業終盤の仕上げの整調で正しい位置に直します。


ハンマーストライクウエイトの測定

88鍵のHSWを測定し、現状を確認します。


HSWスマートチャート

HSWスマートチャートを作成。
お客様が感じていたように「低音が重い」のが確認できます。
14keyは指標10.5もあります。
低音は概ね指標10。
中音は指標7から指標8。
次高音の終わりくらいから指標9になり、最高音で指標10。


スタンウッドの平衡等式

平衡等式を作成して現状分析。
BWは45gを超える鍵盤も多く重めの鍵盤がある一方で、BW40g前後の鍵盤も混在。

Fは9.5gから13.5gと問題なさそう。

FWは低音ではシーリング値超え。中音はシーリング値マイナス。

HSWは低音で指標9から指標10と重め。中音・高音は指標7から指標8で軽め。

SRは6.1から6.5と高め。


平衡等式を利用して事前シミュレーション

平衡等式を利用して、重たい低音をどの程度軽くすることが可能かのシミュレーション。
画像は16key(C)です。
結果として、BW38gにするとFWは36.1gになりシーリング値マイナス1.4g。
この時SRは5.5gまで下がってますのでこの辺りが限界でしょうか。
またはBWをもう少し重たくしてFWを下げて鍵盤の動きを優先することも考えられます。
あるいはSRをさらに下げればBWとFWを下げられますが、いよいよタッチが出なくなってしまう可能性がありますね。


HSW調整後

HSW調整後のスマートチャート。
低音を指標9に下げて、中音が低音と繋がるように指標8.5に上げ、
高音で指標9となるように調整しました。


鍵盤テンプレート

平衡等式と慣性モーメントとを連動させて調整するために鍵盤テンプレートを作成。


FWと慣性モーメントの計算表

16key(C)です。慣性モーメントを大きくする外側の鉛を抜いて、新たにバランスピンから96.5mmの位置に14mmの鉛を。56mmの位置にも14mmの鉛を追加します。


BWと慣性モーメント値の想定

結果、BWは46.5gから38gに下がり18パーセント減。
換算慣性モーメントは173,518gcm2から159,774gcm2になり7.9パーセント減に。


シャンクフレンジのセンターピン交換

一部のシャンクフレンジでトルクの大きい状態でしたので、センターピン交換をしておきました。


パンチングカット

パンチングカット後の接着待ち。


ウイペンヒールにシム

ウイペンヒールにシムを挿入。


曲がったジャック

ジャックがサポートのセンターからずれているものがあります。


工具を使って

専用のプライヤーを使って


ジャックがセンターに

ジャックがセンターにきました。


ヒールの汚れ

ヒールの汚れもこの機会に


ヒールの汚れを除去

ヒールの汚れを一拭きしておきます。


バランスホールの掃除

ブラシを使ってバランスホールの掃除。


バランスホールの汚れ除去

バランスホールのシンク内側は汚れでベットリ。


バランスキーピン磨き

バランスキーピン磨き。
錆よりは汚れてベトベトしているのがいけない。


電動工具で一気に磨く

電動工具で一気に磨きます。


キーピン全磨き

キーピンが綺麗になったらベディングがそのままなのが気になるので


ベディングスクリュー磨き

ベディングスクリューも磨きました。


ローラーの黒鉛除去

ローラーの黒鉛を落としておきます。
左がファイリング後、右がファイリング前。


鍵盤鉛抜き

外側の鍵盤鉛が動的重さに影響するので、あらかじめ抜いておきます。


BW基準での鍵盤鉛調整

BW基準で鍵盤鉛調整。
オリジナルよりも内側に鍵盤鉛を寄せて
動的重さを下げます。


鍵盤穴開け

新たに内側に鍵盤鉛を追加するために穴開けをします。


ピアノにアクションを戻して、整調をすませ完了です。
(整調作業の写真は省略で...)
「軽くなってるかも!」と喜んでもらえました。


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。


渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
メール  info@piano-tokyo.jp

ディアパソンD-164のタッチウエイトマネジメント

ディアパソンD-164

ピアノの先生からの作業依頼です。(私が長年調律にお伺いしているピアノの先生から、こちらの先生への紹介案件です)
鍵盤が重く、せっかくのグランドピアノなのに連打しにくく、生徒さんも力んで弾いてしまったりするのでタッチを調整して欲しいとの事です。カワイ系はタッチの重いピアノが多いので作業依頼が多いです。
作業を行うためにアクションをお預かりにお伺いしました。ピアノは地下防音室に設置されていて、湿度管理もしてあります。これから中村式タッチウエイトマネジメントで標準的なタッチのピアノに調整していきます。


鍵盤の下の埃

鍵盤を外すと埃やゴミが降り積もってます。ここ数ヶ月で2回、別の調律師さんに調律に来てもらってるとのですが、掃除や整調はしてもらえなかったようで。


平衡等式

データ採集をしてから平衡等式を作成します。
BWは41gから53g!これでは重過ぎて弾けませんね...
Fは10.5gから19g。こちらも要調整。
FWは全鍵でシーリング値マイナス。鍵盤鉛を見ると数が少なく、BWは重めに設定されているようです。
HSWは低音が指標7から9。中音が指標9から9.5。高音が指標10.5。カワイ系のピアノに見られる傾向で低音が軽く、中・高音は重くなっています。
SRは5.6から6.2でした。


HSWスマートチャート

HSWスマートチャートを作成。
低音は軽く、中音と高音は重め傾向。バラツキも大きいのでタッチは揃って感じられず、音のアタックも揃いづらい状態です。


平衡等式を利用してシミュレーション

平衡等式を利用して事前シミュレーション。
「DW、UW」が気になる場合は、このようにDWとUWの欄を隠して作業を進めと良いかもしれません。
HSWを0.1g削減しBWは53gから52gに。
パンチングの半カットでSRが0.4下がると想定しBWは52gから47gに。
ヒールへのシムの挿入でSRをさらに0.4下げBWは47gから42gに。
最後に鍵盤鉛調整を行いBWは38gになり、FWは28.2gとなりました。


FWと慣性モーメント

外側に入っている14mmの鉛を抜いて、内側に3つ鉛を追加することに。
オリジナルより鉛の数が増えるのにタッチが軽くなるのは慣性モーメントの影響です。中村さんの書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」71ページの図を参照ください。


最終的な想定値

結果はBWが28パーセント減、慣性モーメントは5.8パーセント減となりました。弾きやすくなりそうですね。


HSW調整後

HSWを調整。
黒がオリジナル、赤が調整後です。軽め傾向の低音と重たい高音を指標9に寄せつつ隣同士のハンマーの重さのバラツキを修正しました。HSWを揃えると、全域でタッチが揃って感じ、音のアタックも揃って感じられるようになります。


猫による確認作業

念の為、猫たちにも確認してもらいます。


オリジナルのハンマーテール

オリジナルのハンマーテールはツルツル。


テールにスカッチを入れる

テールにスカッチを入れて確実にバックチェッキングするようにしておきます。


ローラーの黒鉛

ローラースキンには黒鉛がびっしりと付いていました。ここに黒鉛が付着しているとFへの影響がとても大きいです。


スキンの黒鉛を除去

ローラースキンに付いていた黒鉛を落としました。これだけでもFはかなり下がります。


ヒールにシムを挿入

SRを下げる位置にヒールシムを挿入していきます。


ヒールクロスの汚れ

ヒールへのシム挿入と同時にヒールクロスの汚れも落としておきたいところです。


ヒールクロスの掃除

ヒールクロスの汚れを落として、PTFEパウダーを施工します。


バランスパンチングクロスの接着

バランスパンチングクロスの奥側に接着剤を塗布したらバックチェックに重りを掛けておきます。接着が乾いたらパンチングを半カットしSRを下げます。


バランスピン磨き
バランスホールの掃除

前後のキーピンを磨き、バランスホールをブラシで掃除。鍵盤のバランスホールは細麺棒にベンジンをつけて掃除します。バランスホールの内側は意外と汚れていて、ここをベンジンでクリーニングすると鍵盤の動きがスッキリします。


ブッシングクロスのヘタリ

よく弾かれる中音付近のブッシングクロスが潰れていて、鍵盤の横振れが大きくなっていました。せっかく弾きやすい重さのタッチに調整しても、鍵盤がブレブレだと弾きにくいでしょう。


古いブッシングクロス

ヘタリの大きい中音のキーブッシングクロスを取り除きます。


鍵盤ブッシングクロス交換

結局、中音のブッシングクロスの大半は交換となりました。


鉛の抜き出し
鍵盤鉛を抜く

事前にタッチを重くしている外側の鍵盤鉛を抜き出しておき、BW基準で新たな鍵盤鉛の位置を決めます。


鍵盤穴あけ
鍵盤穴あけ後

新たに内側に鍵盤鉛を入れることで慣性モーメントが小さくなりタッチは軽くなります。


白鍵キートップの剥がれ

キートップの奥側の接着が剥がれて浮いています。カワイの鍵盤では時々見られます。この状態で弾くとペチペチと雑音が出ます。


キートップを接着

白鍵上面を接着しておきます。


白鍵の欠け

1鍵だけ白鍵の先端が欠けていました。


アクリル樹脂

アクリル樹脂で固めて整形します。


白鍵の欠けを補修

白鍵の欠けを補修。


鍵盤脇の汚れ

たくさん弾かれたピアノは鍵盤の脇が汚れてしまいます。


鍵盤脇の掃除

鍵盤脇の汚れを掃除しました。


事前整調

納品前に事前整調しておきます。


コーヒー

納品時にもう一度、整調を行い完成です。
先生にも整調の一部をお手伝いしてもらい作業を体験して頂きました。
コーヒーありがとうございます!


タッチ調整完了

弾きやすいタッチになって、先生にも喜んで頂けました。
後日メールを頂戴し、生徒さん達も喜んでいるとの事。
このピアノ、タッチ以外にも課題が残っていますので、今後の定期調律の際にそちらも手を入れていく予定です。


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。


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ヤマハC1X(令和2年納品)のタッチウエイトマネジメント

HSWの測定

2020年11月納品のヤマハのグランドピアノ C1X のタッチウエイトマネジメントを行いました。製造番号は6511XXXです。


新品で購入したばかりですが「鍵盤が重く、疲れてしまう」との事でメールで作業のご依頼を頂きました。
ヤマハのグランドピアノは、製造番号500万番台の途中からタッチが重くなっています。これに該当するピアノは多くの方にとって、タッチが重いと感じるピアノかと思いますので、製造番号500万番台の中頃以降のピアノをお使いの方は何らかのタッチウエイト調整をすると弾きやすくなります。可能であれば静的重さ(BW)だけでなく、動的重さ(慣性モーメント)も下げると、より弾きやすいピアノになります。今回も「中村式タッチウエイトマネジメント」で標準的なタッチウエイトのピアノに調整していきます。


オリジナルのHSWスマートチャート
オリジナルのHSWスマートチャート

低音は指標8から10、中音と次高音は指標8から9、
最高音は指標9から指標12でした。


平衡等式

データ採集して平衡等式を作成します。
BWは42gから重い鍵盤では48g!これでは重くて弾けそうにありません...
Fは15.5gから20.5g。要フリクション処理ですね。面白いのはフレンジのスティックは全くありません。その他のところでフリクションが大きくなっているということになりますが、概ね検討はついています。
FWは低音でシーリング値超え、中音から上はシーリング値マイナスです。
HSWは低音が指標9.5から10、中音から上は指標9。
SRは6.0から6.7。


平衡等式を利用しての事前シミュレーション
平衡等式を利用して事前シミュレーション

オリジナルのHSWの傾向から中音のHSWは指標8程度で揃えることにします。
HSWを10.4gから10.0gまで下げることでBWは45.5gから43.5gに。
パンチングの半カットでSRが0.4程度下がることを想定しBWは43.5gから39.5gに。
さらにヒールシムをSRが0.2下がる位置にセットしてBWは39.5gから37gに。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整でBWが38g、FWがシーリング値マイナス3gとなって、標準的なタッチウエイトの弾きやすいピアノになりそうです。


HSW調整後

HSW調整後。
隣り合うハンマーの重さが揃うことでタッチも揃って感じられるようになります。同時にハンマーの打弦音も揃ってくるので、音色が揃いやすくなります。
このピアノ、全体にかなり落ち着いた音色に整音されていて、次高音から最高音は落ち着きすぎていて音量が不足しています。(恐らく針の入れ過ぎ)
これを鑑みて、次高音から最高音は指標9と少し重さをもたせて、全体の音色のバランスを取る方向で調整しました。



FWと慣性モーメント

一番外側の鍵盤鉛を抜いて、144mmと61mmの位置に12mmの鉛を。
30mmの位置に8mmの鉛を入れる効率的作業を選択。
CoGは0.417。


BWと慣性モーメント

最終的にアクション全体での慣性モーメントが8.1パーセント減、BWが16パーセント減となりました。


ウイペンヒールクロス

ウイペンヒールクロスは低音と最高音で接着剤が多めに使われた為か、事実上の全面接着になっていました。ヒールクロスを全面接着する方針になったのかと思いきや、中音と次高音は両端だけの接着でしたので、仕様変更という事でも無いようです。ヤマハらしくないですね...


ヒールシムの挿入

全面接着を慎重に剥がしてヒールシムを挿入しました。


レペティションレバー

レペティションレバーの裏側のスプリングと当たる部分、通常「黒鉛」が塗布されている箇所。
アップライトのダンパーレバーと同じエムラロン?に変更されていました。
将来的に雑音が出そうな気がします。要経過観察です...


ダンパーレバー

なんとダンパーレバーは樹脂に変更されています!
こうしてどんどん昔のピアノが見直されいく事になりそうです...


新しい鍵盤鉛の配置

中音の新しい鍵盤鉛の配置。
外側の鍵盤鉛は慣性モーメントを大きくしタッチを重くするので抜き出して、新たに内側に鍵盤鉛を2個追加しました。
鉛の数が多くのなるのにタッチが軽くなるのは慣性モーメントが小さくなるからです。
これについては中村さんの本、「タッチウエイトマネジメントの方法」の71ページ、
図4-6「鍵盤鉛のフロントウエイトと慣性モーメントへの影響の比較」で説明されています。


ヤマハ C1X


納品。整調を見直して完成です。

お客様に弾いて頂いたところ
「全然違う!」と喜んで頂けました。



頂き物
いただき物

H様、お菓子ありがとうございます!


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
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ヤマハ G3(昭和41年)のタッチウエイトマネジメント

ヤマハ No.G3

Eメールで「タッチウエイトマネジメント」作業のご依頼を頂きました。
「他所で弾くピアノと比べて自宅のピアノの鍵盤は異常に重い」との事です。
お伺いした日に調律を済ませ、鍵盤を軽くする作業を行うために
アクションをお預かりしました。


オリジナルの平衡等式

BWがとても重くて、ほとんどのキーで45gを超えています。
Fも異常に大きく大半が15gオーバー。これはスティックによるものですね。
HSWは予想に反して非常に軽く、指標4.5程度。
SRは高め。
鍵盤鉛が少なめなのでFWはシーリング値を下回っています。



オリジナルのHSW

オリジナルのHSWスマートチャート。
指標4から指標5程度と非常に軽いです。


平衡等式を利用してのシミュレーション

オリジナルの4Key(C1)での平衡等式を利用してのシミュレーション。

HSWはオリジナルの指標4.5を維持。
パンチングの半カットでSRを下げ、BWは49.5gから45.5gに。
さらにヒールへのシム挿入でBWが45.5gから41.5gまで下がります。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行いBWは38gとなり
FWは35.1gでシーリング値マイナス5.5となるので
弾きやすいタッチのピアノに仕上げる事が出来そうです。

DWとUWを気にする向きの方々の為に付け加えると
シミュレーションでは最終的なDWが72.5g、
UW3.5gとなっていますが
実際の作業ではFを12gに調整し
DW50g、UW26gという結果に仕上がりました。
事前シミュレーションで必要としている項目は
DW、UWではなく、BWを標準値にする事で
さらに言えばBWを標準値に設定するとともに
慣性モーメントを下げることを作業の目標としています。


FWと慣性モーメント計算

タッチを重くする外側の鉛を抜いて(距離197mm)、
新たに内側に直径14mmの鉛を2つ追加する効率的作業を選択。


BWと慣性モーメント

最終的な結果は、BWが23パーセント減、
慣性モーメントは4.8パーセント削減することが可能となりました。


HSW調整後

HSW調整後のスマートチャート。
赤が調整後、黒がオリジナルです。
指標4.5で滑らかに仕上がりました。


奇妙なファイリング

前回の調律の際に
調律師さんにファイリングをしてもらったそうなのですが
画像の通りハンマーを横から見ると
ウッドのセンターに対して
ハンマーフェルトの頂点が左にズレて
ファイリングされています...


正面から見たハンマー

さらにハンマーを正面から見てみると
こちらも傾いてファイリングされてしまってます...
弦溝を見ても分かる通り
弦合わせでハンマーが左によっているので
右の弦はきちんと鳴っていませんでした。


ファイリングを修正

ファイリングをやり直して、ハンマーの形を整えました。
弦合わせも修正しハンマーが3本の弦の
真ん中で叩くようにしてやると鳴りもよくなります。


ローラーの黒鉛

タッチが重いということで
以前に作業なさった調律師さんが
ローラースキンにテフロンを塗布しているのですが
黒鉛を取り除かないままテフロンを施工しているため
定着せずに効果が得られていませんでした。


ローラーの黒鉛を除去

ローラーをファイリングして黒鉛を除去しました。


PTFEパウダー

ローラースキンの黒鉛を取り除いてから
PTFEパウダーを施工することで効果が最大限に得られます。


センターピンに緑青

センターピンには緑青が見られます。


センターピンのトルク

ウイペンもガチガチにスティックしていて
トルクゲージの目盛りを振り切ります。


シャンクフレンジのセンターピン交換

シャンクフレンジのスティックを直すために
センターピンを交換します。


ハンマーにスカッチ入れ

テールには溝が入っていませんでしたので
スカッチを入れます。
バックストップがカチッと決まります。

ウイぺんのセンターピン交換

ウイペンアッセンブリーの各フレンジも
スティックしていますのでセンターピンを交換し
トルクを正常な値に調整します。


ジャックのズレ

ジャックの位置が右に寄っていて
抜けが悪くなりますので


ジャック位置修正中

専用の工具を使って位置を修正


ジャックに位置が修正された

ジャックが真ん中に来ました。
抜けが良くなりタッチ感も向上することが期待されます。


ヒールへのシム挿入

SRが下がる位置にシムを挿入します。


磨く前のキャプスタン

キャプスタンは長いこと磨かれていないようでした。


キャプスタンを磨いた後

キャプスタンの頭を磨き動きをスムーズに。


バランスホールの掃除

バランスホールの掃除なんかも
長いことされていませんでしたのでブラシを使い掃除しておきます。
ゴミが大量に出てきます...


バランスホールのクリーニング

バランスホールを細綿棒にベンジンを付けて掃除します。
キーピン磨きとセットでこの作業を行うと
鍵盤の動きがとても良くなります。


オリジナルの鍵盤鉛

オリジナルの鍵盤鉛位置の様子。
上から2本ずつ、最低音、低音、中音、次高音、最高音。
最低音では12mmの鉛が3個。低音で2個。
中音では2個から1個程度。
次高音では8mmの鉛が1個もしくは無しで
途中から後方に入れてあります。
最高音は12mmの鉛が後ろ側に1個。
全体に鉛の数が少なくBWを大きめに設定しているようです。


最低音の鍵盤鉛

オリジナルの最低音の鍵盤鉛の配置。
外側に寄せて鉛が入れてあるために
タッチが重くなっています。


鍵盤鉛を抜く

タッチを重くする外側の鍵盤鉛を抜きます。


外側の鉛を抜き出した

外側の鉛を抜きました。


鍵盤の穴あけ

新たに追加する鉛は内側に寄せます。


鉛のかしめ

内側に鉛を入れる事でタッチを軽くします。


黒鍵の塗装剥がれ

たくさん弾かれたピアノは黒鍵サイドの塗装が削られてしまいます。


黒鍵サイドの塗装

黒鍵サイドの塗装の剥がれを塗り直しておきます。

黒鍵の脇を塗装

写真を撮り忘れましたが
白鍵のサイドは手垢で黒く汚れますので
こちらも綺麗に取り除いておきました。


中音の鍵盤鉛

これは中音の新たな鍵盤鉛の配置です。
タッチを重くする外側の鍵盤鉛を抜いて
内側に寄せて鍵盤鉛を入れ直しました。
慣性モーメントが小さくなり
鍵盤を素早く動かすような演奏時にも
タッチは軽くなりとても弾きやすくなります。


事前整調

納品してからも行いますが
事前に整調しておくことで納品時の整調がスムーズに行えます。


納品

膨大な調整を済ませて
ようやくアクションを納品し整調を行い完成です。

BWは標準の38gになり慣性モーメントが下がり
とても軽快なタッチのピアノになりました。

納品時はご依頼頂いたご主人様は不在で奥様に立ち会って頂き、
後日ピアノを弾いた依頼者さんからメールを頂きました。
「これまで弾きにくかったパッセージも楽に弾けるようになり
 ピアノはとても弾きやすくなりました。また音も良くなりました」と
ご連絡があり、作業は問題なく仕上がったようで一安心。


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
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渡辺ピアノ調律事務所
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