ヤマハC6のタッチウエイトマネジメント

ヤマハC6
タッチが重いので軽くして欲しいというご依頼でアクションをお預かりしました。
ピアノはヤマハC6、製番は 557XXXX です。(平成10年納品)

 

慢性的に湿度の高い戸建の1Fに置かれています。
諸事情で数年空き家にしていたそうで
除湿されることなく置かれていて湿気漬けになっていたようです。
しばらく放置していたピアノを子供さんがこれから使おうということで
弾いてみたところ鍵盤が重くて弾きにくいということで
中村式タッチウエイトマネジメントで調整する事になりました。

 

オリジナルのサンプル
サンプルキーで現状を確認します。
BWはバラツキがありますが40g前後で思ったほど重くはありません。
Fは14から20とかなり大きめ。
HSWは指標8から指標9でそれほど重くありません。
SRは6.0から6.6と高め傾向。
KRは0.5から0.51で問題無し。
FWは全てシーリング値を超えています。

2g重りによるSRは低音6.75、中音6.25、高音5.75
6mm治具でのARは低音6.0、中音5.5、高音5.5
シャンクフレンジはスティック傾向で最大で9g(何故かウイペン周りは3g以下で問題無し)
鍵盤バランスホールはかなりきつ目(要鍵盤調整)
鍵盤前後ブッシングクロスは正常ですが、フロントの中音域で若干ガタ有り。

C4(40key)を3要素関連表で確認してみると
HSWが指標8で、SRが6.3の時
シーリング値マイナス3gを達成するには
BWは45gになるとあります。
しかし実際のBWは40.5gですので
鍵盤鉛が多く入れているか、外側に入れて
BW40.5gにしているという事になります。

 

HSWオリジナル
オリジナルのHSWスマートチャートです。
低音は指標9付近。
中音ミドルエンドは指標7といきなり軽くなり、その後は指標8付近。
最高音は指標7から指標8付近でバラツキが大きいです。

 

このピアノのタッチの重さは
湿気でのスティックによるところが大きいので
作業の方向性としては
・シャンクフレンジのセンターピン交換を行いトルク調整する
・鍵盤調整(バランスホール)
・HSWは指標8で均す
・SRが高めなので低くする
・BWは標準的な重さ38g程度にする
・FWをシーリング値マイナスにする
・Fを下げる

この内容で調整することにします。

 

サンプルキーでのシミュレーション
C4(40key)でシミュレーションしてみます。
HSWは指標8なのでこのままでいきます。
SRはバランスパンチングとウイペンヒールの両方で2段階下げますが
パンチングは半カットせずに1/4カット、2/5カット等を利用して
SRを0.2程度下げることを想定します。
ヒールへのシム挿入でSRは0.4下がるとしてHSWは10.0なので
BWは4g軽くなります。
パンチング部分でSRを0.2下げたと仮定して
この部分で2g軽くなります。
ここまでで下がり過ぎたBWを鍵盤鉛調整でBW37.5gに戻し
FWはシーリング値マイナス2gを達成出来ました。

 

HSW調整後
HSW調整後。
指標8でなめらかに揃いました。
これによりタッチが揃うと同時に、音色のバラツキも揃います。

 

FW比較
鍵盤鉛の配置をシミュレーションします。(c4)
タッチを軽くする方向の作業なので外側222mmにある14mmの鉛は抜きます。
新たに144mmと92mmにワンサイズ小さい12mmの鉛を追加すると
目標FWを満たし、オリジナルよりも慣性モーメントが小さくなり
CoGが0.432と理想値に近づく結果になりました。
CoGを考慮しないならば、もっと慣性モーメント値を小さく出来る
鉛の配置もありますが、今回は出来るだけCoGも理想値に寄せるようにしています。

 

BWと慣性モーメント
最終的にBWは37.5gになりオリジナルの40.5gから7パーセント減。
慣性モーメントは4.5パーセント小さくなる結果になりました。

 

センターピン交換
HSW調整と同時進行でシャンクフレンジのセンターピン交換を行い
トルクを3gで調整しました。
全鍵のフレンジトルク、HSWが揃いましたので
タッチと音色のバラツキが揃ってくる事が期待出来ます。

 

キーピン磨き
前後キーピンは黒ずんでザラツキやベタつきがあるので
鏡面に磨いておきます。
鍵盤フロントブッシングは中音域で左右ガタが少し大きいので
フェルトトリートメントを塗布してからコテで軽く熱することで
クロスの厚みを戻しておきました。
鍵盤のバランスホールと前後ブッシングの汚れも出来る限り落としておき
キーピンには潤滑剤を塗布し、鍵盤フロントブッシングクロスには
PTFEパウダーを塗布しました。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準での鍵盤鉛調整後。
もともと入っていた外側の14mmの鉛を抜いて
新たに内側に12mmの鉛が入りました。

 

整調
ピアノ本体にアクションをセットして整調を済ませ完了です。

標準的な重さBW38gがとても心地よく、とても弾きやすいピアノになりました。

 

除湿器
そして現在は、除湿器(三菱MJ-180MX)を湿度50パーセント設定にして
エアコンも併用し常時運転して頂いているので
今後はスティックの心配もなさそうです。

 

渡辺ピアノ調律事務所
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