バットフレンジコードの修理(ヤマハYUX)

バットフレンジコードの修理が何台か続けて入ってきてます。

バットフレンジコードの劣化
こちらはヤマハYUXの330万台です。
ほとんどが茶色く変色するとともに劣化し切れています。
バットフレンジコードが切れたままお使いだった為、

ハンマーが戻らない
このように中途でハンマーが戻らなくなっていました。
バットフレンジコードが切れてしまうと
バットスプリングが立ち上がり
前面のダンパーレバーに干渉し
ハンマーの動きを阻害することがあります。
またこの状態で無理矢理弾いていると
バットスプリングは折れ曲がり、最悪切れてしまいます。

お客様のご希望で、調律にお伺いした日に
そのままアクションをお預かりし
修理する段取りとなりました。

他所様の場合、殆どはバットフレンジを
センターレールに残したまま
ハンマーアッセンブリーをバットプレートからはずして
作業していますが(効率重視)、
私は、以前の記事にもあるように
バットフレンジをセンターレールから外し修理しています。(仕上がり重視)

センターレールからバットフレンジごとハンマーを取り外すのは
バットフレンジのトルク調整をしたいのがその理由ですが

Tension Gram Dial Gauge
最近はWessell Nickel & Grossのフレンジトルクゲージを導入しています。
これによりフレンジのトルクを数値化出来ますので
88鍵全てのフレンジトルクを正確に揃える事が可能になり
より理想的なタッチを造りやすくなりました。
またフレンジのトルクを数値で確認出来ると
例えばタッチウェイトをアクション全体で考える場合にも
タッチデザインがし易くなります。

同時に整音作業も行いますが
このピアノの場合、
6Key(D)から24Key(A♭)と
63Key(B)から73Key(A)までの鳴りが他に比べ弱いので
このエリアは少し元気な鳴りになるように。
また中音セクションは少し荒れているので抑えるように整音しておき
微調整はアクション納品時に再度行います。

潤滑し直した箇所は
ジャックフレンジ、ウィペンフレンジ、ダンパーフレンジ、
ダンパースプーン、ダンパーレバースプリング、ジャックの頭。
ダンパーロッドは外してツルツルに磨き直しておきました。

ダンパーロッドのペダルロッドピン・ブッシングは駄目になっていましたので
ヤマハ純正品で交換しておきました。

バットフンジコード修理完了
新しいフレンジコードに交換されたアクションを
お客様のもとに納品。

整調の見直し
整調も甘々な状態のピアノでしたので
この機会に全て見直しました。
バットフレンジコードのみ交換修理するというよりは
ピアノ全体の整調や整音を見直す作業と言ったほうが近い作業です。

お客様のチェック
調整が終わり仕上がったピアノを
お客様にチェックして頂きました。

「あれ?弾きやすい」
「(鍵盤が)指に吸い付きますね」

との感想を頂きました。

効いていなかったバットスプリングが効いているだけなのですが
バットスプリングの存在は、弾き手にはっきりと感じられています。
普段はその存在を意識することはありませんが
今回のようにビフォーアフターだと分かりやすいようです。
バットスプリングが仕事するようになったので
リフトウェイトが増し、下ろした鍵盤が上がる際に
指に吸い付くような感覚が得られるようになりました。
バットフレンジのトルク調整も
弾きやすいタッチ感に陰ながら貢献しています。
音色のほうも、6Key(D)から24Key(A♭)と
63Key(B)から73Key(A)の整音が上手くいって
最低音から最高音までムラなく綺麗に繋がるように仕上がりました。
ある音域だけ鳴りが違っていたり、或はデコボコな音色ですと
どれだけ上手に演奏しても、心地良い音楽にはなりません。

バットフレンジコードを交換修理する際に
少しの手間を加えるだけで、タッチや音色がよくなります。

バットフレンジコードの修理(ヤマハYUX)@東京都世田谷区

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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トリルのしにくいピアノの調整

購入したアップライトピアノの
「トリルがやりにくいので調整してほしい」とのご依頼。

ピアノはAPOLLO(東洋ピアノ)のA.370です。
アポロ A.370

お客様自らアップウェイトが不足しているんじゃないかと考え
88鍵全てのダウンウェイト、アップウェイトを硬貨で測定し
pdfを送って頂きました。
硬貨を使ってるのでざっくりにはなりますが
リフトウェイト20g以下になっている鍵盤が多数あるようで
確かにこの値だとトリルはしにくそうです。

で、お伺いし拝見しました。
ダウンウェイトは軽いところだと45g以下、
リフトウェイトはかなりの割合で20g以下です。
東洋ピアノは、この傾向のピアノが多々見受けられます。
このピアノ以外でも、以前お伺いしたSSSアクションのアポロは
やはり後からどなたかが鍵盤奥側に鍵盤鉛を追加し対処済でした。
アポロのSSSアクションといえば、グランドに近い云々が売りの筈ですが
こんなにリフト値が少なくては普通のアップライトよりも弾きにくいかと...
キンボールのコンソールなんかも同傾向です。

午前中に調律を済ませてからタッチの調整に入ります。
全弦張替えがされているピアノですので
当面は調律が狂いやすいかと思われますが
繰り返し調律していくと
ある時期、以前程狂わなくなったと感じる時期がきます。

鍵盤からアクションまでを観察していくと
色々と問題がありました。

レギュレチングレールは全セクションきちんと固定されておらず
前後に動いてしまっていました。(増締め済)

キャプスタンは全体にかなり前側に来ていて
マジックライン上から大きく外れていました。
ただでさえ軽いダウンウェイトが余計軽くなってしまってましたので
キャプスタン前後位置を修正しました。

ハンマーストップは広すぎてストップ位置が悪く
ジャック(ウィペン)が上手く戻れなくなる症状が確認出来ましたので修正しました。

その他、ハンマーは針入れ不足でアタックの潰れた音になっていたので針入れ。

鍵盤鉛無し
低音セクションの鍵盤には鍵盤鉛が入っていません。
中・高音は申し訳程度に8ファイの鉛が1個だけ入ってます。
全体に鍵盤奥側が軽過ぎるようです。
一般的なアップライトピアノはアクションを外した際、
グランドピアノのように鍵盤が前下がりにはならずキープされますが(例外もあり)
このピアノは奥側が軽い為、鍵盤の手前がお辞儀してしまいます。

タッチ調整鉛

タッチ調整鉛2
ざっくり整調を修正してから
重さの違う2種類のタッチ調整鉛を使用し、リフトウェイトを確保しました。
作業前、20g以下だったリフトウェイトですが
調整後のリフトウェイトは

  • 低音 25g
  • 中音 26g
  • 高音 27gから28g

になりました。

併せてダウンウェイトは

  • 低音 55gから53g
  • 中音 52gから51g
  • 高音 50g

と上手く繋がりました。

試弾してみると
体感で分かるくらいに鍵盤の上がる勢いは増していて
これでようやく普通のアップライトとしてお使い頂けそうです。
ただアップライトピアノですから
鍵盤を戻しきらない位置での打鍵では音抜けしてしまう場面があります。
これはいずれグランフィールを取付けて
レペティションスプリングが追加されれば解決します。

 

トリルのしにくいピアノの調整@東京都日野市

 

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