カワイKG-3Cのタッチウエイトマネジメント

カワイ KG-3C
カワイのグランドピアノ KG-3C をお使いのお客様からEメールで
タッチを軽くして欲しいと作業依頼がありました。

ご自宅にピアノの先生が来てくれ
KG-3Cでピアノのレッスンを受けているそうなのですが
その先生から「このピアノのタッチは重すぎて弾けないので
当事務所にタッチを軽くしてもらっては」と案内されたそうです。
顧客曰くタッチウエイトに理解のあるピアノの先生らしく
昔製造された重いタッチのピアノで星飛雄馬のように練習するのではなく
現行の欧州ピアノ程度のBWで練習するのが望ましいとの考えだそうです。
また最先端のタッチウエイト調整の存在もご存知とのことでした。

もちろんピアノの所有者である顧客当人も
タッチが重いピアノだと感じていたようです。
アクションを引取に伺う前に調律を済ませておきました。

少し弾いてみただけでも重いと感じますし
BWを計ってみると45g以上、50gを超える鍵盤もあり確かにとてもタッチが重いです。

 

ルーズピン修理
調律中、ルーズピンが5本ほどあったので処置しておきました。
フレームに染みが見られるので、何か液体をこぼしたのかもしれません...

しばらくの間アクションをお預かりして
中村式タッチウエイトマネジメントでもう少し弾きやすいタッチに調整します。

 

 

ウイペンアシストスプリング
低音と中音のウイペンにはアシストスプリングが付いていて
次高音と高音にはアシストスプリングがありません。

まずアシストスプリングが付いた状態でバランスウエイト(BW)を計ってみました。
・C1(4) DW70g UW33g BW51.5g F18.5g
・C2(16) DW65g UW34g BW49.5g F15.5g
・C#2(17) DW65g UW30g BW47.5g F17.5g
・C4(40) DW61g UW36g BW48.5g F12.5g
・C#4(41) DW63g UW29g BW46g F17g
・C6(64) DW60g UW35g BW47.5g F12.5g

BWは46gから51.5gでサンプルキー全てで重すぎて弾けない重さでした。
Fも少し大きめです。

 

ウイペンアシストスプリングを生かして調整する事も出来ますが
調整機構が無いタイプなので後々メンテナンスが面倒なのと
アシストスプリングが付いているとタッチが
安価なマウンテンバイクルック車に付いているFサスペンションのようになり
力が逃げるばかりで、無いほうがダイレクト感が得られるので
取り外して調整します。

アシストスプリングを外してBWを計り直してみたところ
・C1(4) DW92g UW59g BW75.5g F16.5g
・C2(16) DW94g UW65g BW79.5g F14.5g
・C#2(17) DW90g UW56g BW73g F17g
・C4(40) DW82g UW58g BW70g F12g
・C#4(41) DW83g UW51g BW70g F12g
・C6(64) DW60g UW35g BW47.5g F12.5g

BWは70gから79.5gとなりました。
アシストスプリングがBWの20g以上を担っているようです。
ウイペンを外して手でフレンジを持ってみると
ウイペンは30°くらいの角度で跳ね上がります。
C6(64)はもともとアシストスプリングが無いので変化はありません。

2g重りによるSRは
低音6.5 中音6.25 高音6.75

6mm治具によるARは
低音6.1 中音 5.8 高音5.75

 

オリジナルのHSWチャート
オリジナルのHSWを全鍵チェックします。
低音は指標7から指標8と軽く、K社のピアノによく見られる傾向です。
中音は指標8から指標9
高音は指標10から指標11と重め。
これらの分布から指標9近辺でなめらかに揃えるのが現実的でしょうか。

 

オリジナルサンプルキーの平衡等式
オリジナルのサンプル音での平衡等式を作成。

ウイペンアシストスプリングはコードから外して測定しています。
BWは最大で79.5gととても重いです。
Fは鍵盤によって少し大きいです。
FWはアシストスプリングが付いている低音と中音は極端に軽く
アシストスプリングの無い次高音と最高音ではシーリング値を超えています。
KRは0.53から0.54。
HSWは指標7から指標11。
SRは6.8から7.1とかなり高め。

HSWは指標9で揃えて
SRを2段階下げ
FWはシーリング値を超えないギリギリのラインで設定して
BWを下げられるところまで下げ
BW基準の鍵盤鉛調整の際に鍵盤鉛を内側に寄せていれ
慣性モーメントを小さくするという見立てになりました。

 

平衡等式を使った事前シミュレーション
C4(40)の平衡等式を使った事前シミュレーション。
HSWは指標9で揃える予定なのでそのまま変わらず。
ヒールへのシム挿入でSRが0.4程度下がると見込んで、
HSWは10.4gなのでBWは4g軽くなると見込みます。
続いてバランスパンチングの半カットでSRを0.4下げて、BWがさらに4g軽くなります。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整をする際にFWをシーリング値ギリギリの
29.9gにするとBWは43gになります。
すごく軽いタッチとはなりませんが
現行のY社のグランドピアノはBWが43gくらいあったりするピアノもあるので
作業前の状態よりは弾けるピアノになるのではないかと思います。
本当はFWをシーリング値マイナス3gにして
BWを45gくらいに設定するとセオリー通りなのですが
まだまだ静的重さでタッチウエイトを判断する方が多いので
今回は忖度してBWを優先して下げています。

 

 

HSW調整後
HSW調整後のスマートチャート。
指標9付近で滑らかに揃えました。
隣り合うハンマーの重さが揃うので
タッチだけでなく音色も揃ってきます。

 

変形したローラーナックル
ハンマーのローラーナックルは変形していてタッチに影響が出そうです。

 

ローラーへのシム挿入
ローラーにシムを入れて形を整えました。
ジャックはABS樹脂なのでローラースキンに黒鉛は付着していませんでしたが
サポートトップの黒鉛が付いているので
ローラースキンを軽くブラシ掛けしておきました。

 

テールのスカッチ入れ
ハンマーのテールにはスカッチが入っていなかったので
スカッチを入れておきました。
その他6ヶ所のハンマーでフレンジのトルクが大きかったので
センターピンを交換しトルク調整しました。
ハンマーフェルトにはそこそこの弦溝が入っていたので
ファイリングも済ませておきました。

 

 

 

アシストスプリングを取り外す
アシストスプリングがあるとタッチにダイレクト感が得られないので
全て取外しました。

 

ヒールクロス
ヒールクロスには黒鉛が塗られ真っ黒に。

 

ヒールへのシム挿入
ヒールクロスの黒鉛をベンジンで落とし
シムを挿入しSRを1段階下げます。
仕上げにヒールクロスにはPTFEパウダーを塗布しておきます。

 

バランスパンチングクロスの半カット
SRの高いピアノなのでバランスパンチングクロスの半カットで
SRをもう1段階下げます。
接着している間、鍵盤ならし用の重りをバックチェックに掛けておくと
鍵盤が後ろ加重の状態でパンチングクロスを接着出来ます。
パンチングの半カットでは、鍵盤が下りていく際の
鍵盤底部でのパンチングの圧縮が無くなることが注視されがちですが
実は物理的な支点が奥側に移動する事でギアレシオが変わります。
ギアレシオの説明は、昨年の中村さんの研修で
自転車のギアを使った解説が私にはとても分かりやすかったです。
多段のスポーツ自転車に乗る方ならば
フロントのチェーンリングをアウターやインナーに変え、
リアのスプロケットの歯数を換えて組み合わせる事の変化が
経験として理解し易いと思います。
同じ自転車であってもフロントのチェーンリングが52tで
リアのスプロケットが11tの組み合わせだった場合
プロのライダーを除いて、ホビーライダーにとっては
重すぎて漕ぎ出す事が難しいか、
短時間は踏めても長時間漕ぎ続けることは難しいケースが多いでしょう。
例えば仮にフロントを36tにしてリア21tにすると
多くの人が楽に踏める筈です。
但し脚力のある人にとってはすぐに踏み切ってしまい
軽過ぎる組み合わせになる事もあります。
乗り手に合った最適なギアレシオが必要になります。
例えばフロント36t、リア21tの組み合わせで
丁度良い重さになった自転車で
さらにタイヤを600gのものから300gの軽量タイヤに交換した場合
慣性モーメントが下がりさらに楽になりますが
すると今までのフロント36t、リア21tでは軽くなり過ぎて
フロント36t、リア23tあるいはフロント36t、リア25tで
丁度良い乗り心地になる事も考えられます。
複数の要因が組み合わさって重さに影響する訳です。

 

オリジナルの鍵盤鉛
オリジナルの鍵盤鉛の配置です。
使われている鍵盤鉛は全て12mmです。
上3本が低音。中段3本が中音、下の3本が高音です。
いずれの音域も連続して隣り合う鍵盤です。
鉛の数や配置が隣の鍵盤とで違っているので
タッチが揃わなくなっています。
低音と中音で12mmの鉛が0個から2個と少ないので
FWはとても軽いです。その分BWは大きくなっています。
高音はアシストスプリングが無く、鍵盤鉛は2個から4個と
低音よりも多くの鉛が入っています。

鍵盤周りでは
バランスホールがガチガチにきついので再調整しました。
バランスホールを細綿棒にベンジンを付けて清掃すると真っ黒です。
前後のキーピンとキャプスタンは真っ黒に変色していたので磨き直し、
フロントピンにはプロテック プロルーブを塗布し
バランスピンにはプロテックMPL-1を塗っておきました。
フロントブッシングクロスには黒鉛がたっぷり塗ってあったので
ベンジンで落として、PTFEパウダーを塗布しておきます。

 

不要な鍵盤鉛を抜き出す
事前に外寄せで入っている鍵盤鉛を抜いておき
その状態でBW基準の鍵盤鉛調整を行います。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準で鍵盤鉛調整をした状態です。
上2鍵が低音側、下2鍵が中音側です。
タッチを軽くする方向の作業なので
必要に応じて外寄せで入っていた鍵盤鉛は事前に抜いて
内側(バランスピン側)に寄せて鍵盤鉛を配置しています。
隣合う鍵盤で鉛の配置や数が極端に違わないようにするとタッチ感が揃います。
例えば今回の場合BWは43gまでしか下げられませんが
鍵盤鉛を内側に配置することで慣性モーメントを小さく出来るので
その分タッチを軽くすることが出来ます。
これもスポーツ自転車に乗る方であれば実体験として分かると思いますが
自転車の走りを軽くしようとした場合
フレームやハンドル、サドル等を軽量なものに換えるよりも
タイヤを軽量なものに交換すると、体感出来るくらい走りが軽くなります。
これはタイヤが回転するパーツの最も外側にあるからです。
支点はハブ軸で、途中スポークを介してリムがあり、
チューブがあって、最も外側にあるのがタイヤです。
慣性モーメントは質量×支点からの距離の二乗で効いてきますから
自転車の走りを軽くしたいのならば
支点から最も遠くにあるタイヤ、チューブ、リムを
今より軽いものにするのが効果的です。
これを「鍵盤鉛とバランスピン」「ハンマーとシャンクセンター」の関係で考えてみると...

 

そして本日、作業を終えたアクションを納品してきました。
事前整調を終えたアクションをセットして
音を出した瞬間「軽っ!」というのが第一印象。
元々のBW50g近いタッチ感を指先が覚えているので
今回BWは43gまでしか下げられなかった訳ですが
大分楽に弾く事が出来ます。
BWが下げられない分、慣性モーメントを下げているのが
地味に効いてきている印象です。
お客様に試弾して頂き、無事にOKを貰って作業完了です。

 

グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
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渡辺ピアノ調律事務所
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