ヤマハC3のタッチウエイトマネジメント

ヤマハC3白鍵
ヤマハのグランドピアノ C3 のタッチウエイトマネジメントを行いました。

 

鍵盤が軽く弾き応えが無いので重くして欲しいというご依頼内容です。

 

調整後の作業結果を先にお伝えしますと
お客様に試弾頂いたところ
「追従性がよく、しっかり入る」
「受け止めてくれる、安定感がある」
「めちゃくちゃいいです、長年の悩みが解消されました」
と大変満足して頂けました。
何度も何度も打ち合わせをしたお陰で
弾き手の希望にピッタリのタッチウエイトに調整する事が出来ました。

 

それでは詳細について。

 

製造番号624XXXXで、納品が平成20年(2008年)。
前回作業したC3とほぼ同時期のピアノで
オリジナルのタッチウエイトもほぼ同じ。
同じ重さの鍵盤のピアノでも
弾き手が変わると感じ方も変わるもので
前回のお客様にとっては「重く感じるので軽くして欲しい」となり、
今回作業するお客様にとっては「軽く感じるので重くして欲しい」となります。
ピアノ使用者はプロのピアニストを目指している大学生の男性です。
演奏技術は上級者レベルです。

 

顧客がこのピアノのタッチに感じる事としては
・板を弾いているような感じを受ける
・とにかく弾き応えがない
・机の上でエアーピアノを弾いているよう
・今来てくれている調律師さんに何度も相談し調整してもらったが改善しない
等々です。

 

弾き手の要望は抽象的であるため分かり難く
何度もメールのやりとりをし
それでもまだ真意がはっきりしないので
お伺いしてピアノを拝見させて頂きながら直接打ち合わせをしました。

整調は問題なく、働きもしっかり出ています。
ダンパーストップレールが当たっているのではないかという懸念があったのですが
当たってはいないようですが、クリアランスがほぼ無く調整しました。

整音の状態もさほど悪くなく
次高音から最高音が少しうるさいかなという状態です。

 

お話させて頂く中で、結局のところ
このお客様にとっては鍵盤が軽過ぎるという事が分かってきました。

我々調律師は数多くのピアノに触れる機会がありますから
相対的にどのくらいの重さが標準だということが
知識としても体感でも分かっている訳ですが
お客様曰く、それほど多くのピアノに触れる事はないので
どのくらいの鍵盤の重さが標準で、自分のピアノの鍵盤の重さは
幾多あるピアノの中でどの辺りに位置するのか
いまひとつピンとこないとの事でした。
言われてみると、そんなものかなと妙に納得しました。
今お使いのC3のタッチは標準的なものより少し重めで
お客様にとってはそれでもまだ軽いようである旨お伝えすると
そうなのかとひとつ疑問が解消され安心なさったようです。
また時々某所で演奏する事があるベーゼンドルファーの鍵盤が重く
普段の練習でもそれに対応出来るようなタッチが良いという
本音を引き出す事も出来、直接お会いしての打ち合わせの大切さを痛感しました。

 

出来るだけ希望に近いタッチウエイトに調整するため
数鍵ごとにサンプルをつくって弾いて頂きました。

a. バランスパンチングを半カットしたものと置き換え
b. 半カットパンチングにくわえ、ハンマーに0.5gのクリップを付けたもの
c. 半カットパンチングにくわえ、ハンマーに1.4gのクリップを付けたもの
d. 半カットとクリップにくわえ、鍵盤の前後等距離に鍵盤鉛を仮止めしたもの

 

お客様が「これ好きかも」と仰ったのは「c.」でしたので
このタッチウエイトを再現する格好で作業する事になりました。

BWでいうと50gかそれ以上で、慣性モーメントもかなり大きくなっています。
サンプルを数鍵片手で弾く場合と
両手を使い実際に広い音域を演奏する場合とでは
体感出来るウエイトが違ってくる事を想定し
50gを超えるようなBWは必要ないと判断し
BWは50gとします。
また実際の作業ではハンマーの1.4g増量は難しいので
パンチングの半カットに加え、ヒールクロスへのスペーサー挿入も行い
鍵盤鉛調整の際に外側に鉛を配置することで
慣性モーメントを大きくする等して、サンプルを再現する事にします。

 

お客様からの要望で、いくつかのパーツを交換する事になりました。
・人工皮革のローラーナックルを本革に変更
・キャプスタンをスタインウェイ純正キャプスタンに変更
・フロントパンチングクロスをホワイトパンチングクロスに変更

これらの交換は先に済ませてから作業にはいります。
ローラーの交換でレシオが微妙に変わってしまう可能性がある事や
キャプスタンの重量が1g程度違うからです。
ローラーの交換は特にオリジナルと部品間寸法が変わらないよう注意して行います。

 

HSWチャート
オリジナルのHSWチャート。

低音は重く、特に中音との境目で指標11前後になっていて
出てくる音にもそれが現れています。
中音はもっとも弾かれる割り振り付近で指標8のハンマーがあり
低音との差があり過ぎるため軽く感じてしまう要因になっています。
次高音から最高音は、指標9から10でバラツキ有りですが
これはさほど問題があるように思われません。
中音が軽い事で、全体が軽いと感じさせてしまうと思われますので
全体を指標10で揃えてやると、中音も重くなり
全鍵を弾いたときに重さと音色のバラツキを感じなくなると思いますので
その方向でHSWを調整します。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナルのサンプル音での平衡等式。

BWは40gから45gで、普通の人が弾いたら十分に弾き応えがあり
人によっては重く感じることもありそうですが
今回は弾き手が上級者でありパワーもあるので
このウエイトでは軽く感じてしまうようです。

 

SRは5.6から6.0でまずまず標準。
2g重りでのSRは低音5.8、中音6.0、高音5.8。

FWは中音から高音はシーリング値マイナス2gから5g程度。
低音はシーリング値を超えていて
これは低音のハンマーの重さを鍵盤鉛でカバーしようとするためで、結果FWが大きくなっています。

KRは0.5でバラツキなし。

Fも標準もしくは小さめ。

6mm治具でのARは5.3
計算ARは4.6

アクションスプレッドは112.5mm。

シャンクフレンジのトルクは低音2.2gから3g、中音3gから4g、高音3g程度。
ウイペンフレンジのトルクは4g。

全体としてはさほど問題のないアクションのようです。

 

シミュレーション
C4(40key)でのシミュレーション。

HSWを0.5g増量し
ヒールのフレンジ側へのスペーサー挿入と
バランスパンチングの半カット(手前を残す)で
SRをそれぞれ0.4程度高くなると仮定し
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行い(この際、鍵盤鉛を外側に配置し慣性モーメントを大きくする)
BWは50gで、FWはシーリング値マイナス1.8gとなりました。

 

鍵盤テンプレート
慣性モーメントも変更しますので
鍵盤テンプレートを作成します。

 

FWと慣性モーメント
内側に入っている鍵盤鉛を抜いて
もう少し外側に鉛を追加する効率的作業を選択します。

 

BWと慣性モーメントの比較
BWはオリジナルの42gから50gへ19パーセント大きくなり
アクション全体での慣性モーメントは9.5パーセント大きくなるという結果になりました。

 

 

HSW調整
HSW調整。
指標10で綺麗に揃える事が出来ました。
中音が軽過ぎることもなくなり、
ハンマー鉛の増量分慣性モーメントも大きくなり
全体のタッチと音色が綺麗に揃う事が期待出来ます。

今回は鍵盤を重くする(SRを高くする)方向の作業なので
ウイペンヒールへのスペーサー挿入は
フレンジ側に寄せて入れます。

バランスパンチングも軽くする作業の時とは逆で
手前側を残して後ろ側半分をカットします。

 

鍵盤の鉛抜き
事前に内側の鍵盤鉛を抜いてしまいます。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準での鍵盤鉛調整。
白鍵はBW50gにして、
白鍵に比べ短い黒鍵が重く感じないように
黒鍵はBW49gにしました。

 

鍵盤の鉛詰め
新たに追加する鉛は外側に寄せて入れました。
これにより同じFWでも慣性モーメントは大きい状態になります。

 

タッチウエイトとは直接関係ありませんが
白鍵上面の先端の接着が剥がれている鍵盤が20鍵ほどあり
1鍵は完全に剥がれていましたので
これらを全て再接着しておきました。

また人工象牙の白鍵が黒く汚れ
表面がザラザラデコボコした状態でしたので
サンディングして表面をツルツルにし、真っ白に仕上げました。

 

作業後のSRは平衡等式でのシミュレーションと同じ結果となり
2g重りによるSRは6.3と高くなりました。

ARは意外と変化がなく5.3のままでした。

 

付帯作業として行ったのは

  • キャプスタンをスタインウェイ純正品に交換(研磨、潤滑済)
  • ローラーナックルを本革のものに交換
  • フロントパンチングをホワイトパンチングに交換
  • シャンクフレンジの(中音を中心に)トルク調整
  • バランスキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • フロントキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • キーバランスホールの汚れベタつき除去
  • 前後キーブッシングクロスの汚れ落としと潤滑
  • ヒールクロスの汚れ落としと潤滑
  • ジャックトップとサポートトップと裏側の黒鉛なめし
  • 人工象牙のざらつきと汚れを研磨修正
  • 白鍵サイド木部の汚れ落とし
  • 黒鍵手前の鉛を抜いた穴は黒鍵専用塗料を塗布
  • 黒鍵サイドの塗装の剥がれを黒鍵専用塗料で塗装
  • ハンマーファイリングを含む下整音処理(納品時再調整)
  • 下整調(納品時再調整)
  • etc

 
鍵盤が軽いので重くして欲しい
鍵盤が重いので軽くして欲しい

など、鍵盤の重さ(タッチウエイト)のお悩みご相談ください。

出先で簡単にとはいきませんが
アクションをしばらくお預かりさせて頂ければ
ご希望のタッチに調整します。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
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精密タッチウエイトマネジメント(FW基準の鍵盤鉛調整)

鍵盤鉛調整の穴あけ
お客様からのご依頼でヤマハのグランドピアノ C3 の
精密タッチウエイトマネジメント(FW基準の鍵盤鉛調整)を行いました。

 

お客様が抱えるタッチの悩みとご希望は

 

 

  • 鍵盤の重さにバラツキを感じる
  • 繊細なフレーズ、速いパッセージでの弾きにくさ
  • 連打で重く感じる
  • トリルやトレモロが入りにくい
  • 長時間弾くのが辛い
  • 理想はスタインウェイのタッチ

 

といった内容です。
結果から申し上げますと
調整後お客様に弾いていただいた感想は
「ずっと弾いていられる!」
「まったく別のピアノになったみたい!」
と軽快なタッチと雑味の無い音色にとても満足頂けたようです。

 

私が試弾させて頂いた感想としては
FW基準で精密に行った鍵盤鉛調整と
なめらかなラインのHSW調整の組み合わせにより
最低音から最高音までのタッチのつながりの良さと
いっさいバラツキを感じない弾き心地が、弾いていて心地良い事。
また慣性モーメントを下げた事により
指先から腕までの負担が確実に少なくなっている事が体感出来、
お客様同様、
「ずっと弾いていられる」
「さっきまで弾いていたのに、またすぐピアノに向かいたくなる」
そんなタッチのピアノに仕上ったと思います。
以前ザボンが使われた高音部ハンマーの音を
中音セクションからきれいに繋がるようにするのに
少々苦労しましたが、音色のほうも満足いく仕上がりとなりました。

 

それでは作業の概要について。

 

比較的新しいピアノで、SNは 624XXXX (平成20年納品)です。
概ね製番600万番台以降では
今回のお客様と似たような印象(鍵盤が硬い、重い)を受ける方が多いようです。
実際にお伺いして弾かせて頂いたところ
全体としてみると重く、白鍵よりも黒鍵が重い。
低音セクションは特に重く、中音からは少しマシになり
最高音は逆に少し軽過ぎるといった印象です。

 

お客様のご希望で一部パーツを作業と同時に交換します。
オリジナルの頭の平たいキャプスタンを
頭にアールのかかったスタインウェイ純正キャプスタンに変更します。
スタインウェイのキャプスタンはヤマハのものより1g程度重いので
作業後に交換するとタッチウエイトに微妙に影響してくるので
先にキャプスタンの交換を済ませてしまい
それから各種データの採寸に取り掛かります。

 

オリジナルのサンプル音での平衡等式
まずはオリジナルのサンプル音で平衡等式を作成し現状分析します。

 

BWは重めでバラツキあり。
HSWは低音で指標10超えと重くバラツキが大きく
中音と次高音は指標8.5から9付近で比較的バラツキは少ないです。
FWはシーリング値付近。
Fは小さめ。

 

SRは2g重りによる計測で5.8、計算SRも5.8。
ARは6mmジグで5.5、計算ARは4.9でした。
アクションスプレッドは112.5で問題無し。
フレンジトルクは1.6gから2gと小さめ。

 

その他気付く点としては
ローラーには黒鉛がかなり付着していて
初動では問題ないものの
ジャックの脱進時に雑音と共に指先に不快な抵抗を感じます。
前後キーピンとキーブッシングクロスは
汚れていてベタツキがあります。
鍵盤バランスホールも同様に黒く汚れています。
また直接タッチウエイトと関係ありませんが
次高音から最高音にかけてザボンが使われていて
ハンマーがガチガチに硬くなっています。

 

平衡等式でシミュレーション
サンプルキー16(C2)の平衡等式上でのシミュレーション。
HSWを指標10から指標9.5へ下げBWを2g下げます。
本当はもう少し下げたいのですが
後述のHSWチャートを見て頂くと分かりますが
低音のHSWはバラツキが大きく、高いところでは指標11というハンマーもあるので
現実的にバラツキを揃えるには指標9.5付近となります。
中音から最高音までは指標9でいけそうです。

 

次にヒールへのスペーサー挿入で
SR0.4減を見込みます。

 

さらにバランスパンチングのカットでSRを0.4下げます。
今回はFW基準で作業を進めていくので
パンチングのカットは最終段階まで手をつけません。
SRの低減はウイペンヒール側で担い
バランスパンチングは、SRの誤差修正としての役割を持たせます。

 

シミュレーションの結果、
最終的にBW37g、FWシーリング値マイナス3gに持っていけそうです。

 

鍵盤テンプレート
BWと同時に慣性モーメントも小さくしたいので
鍵盤テンプレートを作成します。

 

FW比較と慣性モーメント計算表
鍵盤手前側の14mmの鉛を抜いて
内側に鉛を追加する「効率的作業」を選択します。

 

オリジナルと作業後の比較
BWが14パーセント小さく(軽く)なり
アクション全体での慣性モーメントは7.4パーセント小さくなるという結果になりました。
まずまず軽快なタッチに仕上がりそうです。
今回はFW基準の鍵盤鉛調整を行いますので
HSWを一定の指標で揃え
FWもシーリング値マイナス3gで一定に揃え
理屈の上では揃って来る筈のBWですが
SRの誤差がBWに誤差として出てくるので
最後にSRを微調整してBWを揃えるという流れになります。

 

 

HSW軽減
HSW増量
HSWスマートチャート
HSWスマートチャート。
黒がオリジナルで、低音は重くバラツキも多く
低音と中音の境目でいきなり軽くなって
そのあと中音と次高音は指標9付近でまずまず。
最高音で再び重くなっています。
HSW調整後が赤で
低音は指標9.5付近でバラツキを揃え
中音から最高音までは指標9でほぼ綺麗に揃いました。
これによりタッチのバラツキもなくなると同時に
音色のバラツキも無くなる事が期待出来ます。
0.1g単位で調整します。

 

ウイペンヒールにスペーサーを挿入
ヒールにスペーサーを挿入し
SRが0.4程度下がることを見込みます。

 

オリジナルのフロントウエイト
ヤマハC3オリジナル状態のFWチャートです。
なめらかな曲線はシーリング曲線で
このシーリング曲線から一定量低い値で
滑らかな曲線を描くのが理想ですが...
オリジナルのFWはかなりのバラツキがありました。
低音ではシーリング値を境に極端に重い鍵盤や軽いものがあり
中音はシーリング値マイナス3gで
良さそうな部分もありますがやはりばらついていて
最高音も同様です。

 

新たな鍵盤鉛の位置決め
FW基準での鍵盤鉛調整。
新たな鍵盤鉛の位置決めをします。
先のシミュレーションでシーリング値マイナス3gとすることと
換算慣性モーメントが7.4パーセント小さくなる位置を
シミュレートしていますので
それに準ずる形で新たに鉛を入れる位置を決めていきます。

 

鍵盤鉛挿入

一番手前の鍵盤鉛は抜いて
内側に鍵盤鉛を追加しました。
一鍵ごとにFWシーリング表を確認しながら
シーリング値マイナス3gを満たしつつ
慣性モーメントが小さくなる位置に鉛を追加していきます。
0.1g単位で調整します。

 

鍵盤の肉抜き
最高音セクションの処理です。
FWを0.2g、0.3g軽くあるいは重くしたい状況で
鍵盤鉛を追加したくないような場合の措置です。
上の鍵盤は鍵盤の後ろ側を肉抜きする事でFWを大きくし
下の鍵盤は鍵盤の手前側を肉抜きしてFWを小さくしています。

 

フロントウエイト調整後
全鍵のFWを調整しました。(赤が調整後)
シーリング曲線(黒)から一定量低い位置で
ほぼシーリング曲線と似たラインを描いています。
例えBWを88鍵綺麗に揃えたとしても
HSWやFWがばらついていたならば
演奏した時にタッチが揃っている感覚は得られないという考えに基づきます。
ここまでの作業でHSWはほぼ綺麗に横並びに揃えてあり
FWもほぼ綺麗に揃いましたので
最終的なタッチはかなり揃ってくるのではないかと期待が高まります。

 

バランスパンチングのカット
ここまでの作業を終えると
自動的にBWも揃う...とはいきません。
何故なら各鍵ごとにSRの誤差がある為
その誤差がBWの誤差となってきます。
その為BW基準の鍵盤鉛調整を行うタッチウエイトマネジマントでは
一律に半カットしていたパンチングクロスですが
今回はSRの最終調整用にとカットせずに残してありました。
FW基準での鍵盤鉛調整では
最後にパンチングクロスのカット率を微妙に変えながら
SRの誤差を調整し、BWを揃えます。
すると写真のようにパンチングのカット具合が
鍵盤ごとに微妙に変わってきます。
この技術を知らない調律師さんが
これを見たら「?」となるかもしれません。
バランスキーピンに刺さっているはずのパンチングクロスが
鍵盤の底に貼付けてあり、しかもカットされていて
さらに切り方は不揃いであると...
この技術が国内に浸透するにはもうしばらくかかりそうです。

 

その他、付帯作業として行ったのは

  • キャプスタンの汚れ落としと潤滑
  • バランスキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • フロントキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • キーバランスホールの汚れベタつき除去
  • 前後キーブッシングクロスの汚れ落としと潤滑
  • ヒールクロスの汚れ落としと潤滑
  • ローラーの黒鉛落としと潤滑
  • ジャックトップとサポートトップの黒鉛なめし
  • 人工象牙のざらつきを研磨修正
  • 白鍵サイド木部の汚れ落とし
  • 黒鍵手前の鉛を抜いた穴は黒鍵専用塗料を塗布
  • 黒鍵サイドの塗装の剥がれを黒鍵専用塗料で塗装
  • ハンマーファイリングを含む下整音処理(納品時再調整)
  • 下整調(納品時再調整)
  • etc

 

 

最後にARを測定しなおすと5.5から5.2に下がっていますので整調の際に注意が必要です。
ARと鍵盤手前長さ、測定点から算出される
このピアノに必要な打弦距離とあがき量は
打弦距離44mmから45mmで、あがきは10.2mm程度である事が分かりましたので
この寸法を目安として注意深く整調を行います。
レシオを大きく変更した場合
メーカーの基準寸法に固執していると整調が成立しなくなります。

 

軽快なタッチだった全盛期のヤマハのグランドピアノから
製造番号600万番台以降の新しいヤマハのグランドピアノに買い替えた方々からは
「以前のピアノのほうが弾きやすかった」という意見をわりと頂戴します。
最新のヤマハでも、かつてのヤマハのような
軽快なタッチに改良出来ますので、まずはメールでご相談くださいませ。
精密なタッチの調整、承ります。

 

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(作業編)

ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメントの続きです。

 

前回、データの採集、分析、試行をした結果をもとに
実際の作業に取り掛かります。

 

HSW測定
HSWを全鍵測定します。
その他にWWやFW , KRも測定しておきます。
念のためアクションスプレッドと
二つのマジックラインも確認しておきました。

 

HSWの減量
重過ぎるハンマーはテーパーをもう少し削るか
テールもしくはアーク部を削り0.1g単位で減量します。

 

HSWの増量
軽過ぎるハンマーは
専用の鉛を入れて増量します。
こちらも0.1g単位で調整します。

 

smart chart

黒がオリジナル、赤が調整後です。
全体を見ると、低音が極端に軽く、
中音と高音はそこそこ重いという状態です。
低音は平均指標7といったところですが

最も軽いところで指標5ですので
どう頑張っても理想的な並びにはなりませんので
隣合うハンマーでのバラツキを揃える方向で調整しました。
中音と高音は指標9から10で出来る限り揃うように調整しました。

 

 

ハンマーのファイリング
ハンマーは針の下入れとファイリングをしておきます。
(中央から左がファイリング後、右がファイリング前)
今回は攻めのファイリングではなく
ピアノに優しいファイリングを行っています。
一般家庭のピアノが長くお使い頂けるよう配慮してあります。

ハンマー周りでは
71Gと77C#で膠切れの雑音が出ていたので直してあります。
ほとんどのシャンクフレンジがスティック直前の状態でしたが
61Keyだけガタが出ていたので修正してあります。
その他のシャンクフレンジはトルクが大きいので
標準値にトルク調整しておきました。

 

ヒールへのスペーサー挿入
ヒールにスペーサーを入れSRを下げます。
同時にARとギアレシオも変わるので
確認しながら進めていきます。
この作業は本来ウィペンを外さずに出来るのですが
今回はフレンジのトルクが大きく
トルク調整も同時に行う必要があり、一つずつ外して作業を行いました。
平行してヒールクロスの汚れべたつきをベンジンで拭き取り
クロスのへこみをフェルトトリートメントで修復しています。
ヒールクロスは仕上げにPTFEを刷り込みなめしてあります。
サポートの上面と裏のスプリングの接点(黒鉛の塗ってある部分)と
ジャックの頭はスムーズな動作をするようなめしておきます。
新たな黒鉛は追加していません。

バランスパンチンングの半カットを以前行っていますので
SRはオリジナルより2段階下がることになります。

 

追加された鍵盤鉛

鍵盤鉛
鍵盤には後付けの板鉛が全鍵に追加されています。
この鍵盤(中音)では、元々メーカーが
DW基準で入れた鍵盤鉛が4つも入っているところに
さらに板鉛が外側に追加されている為
FWは大きく、慣性モーメントも大きくなってしまっています。

せっかく綺麗に貼ってくれた後付けの板鉛ですが
不要と判断されますので、全て取り外します。

 

鍵盤鉛を抜く
一番外側の鍵盤鉛を抜いていきます。

 

抜いた鍵盤鉛
外側の鉛を全て抜きました。

 

鍵盤に穴開け
新たに内側に鉛を追加するために
穴開け作業を行います。

 

新たな鉛を追加
新たな鍵盤鉛を追加していきます。
専用のポンチでかしめて固定します。

 

鍵盤鉛を内側に追加
外側の大鉛を抜き、内側に新たに鉛を追加しました。
目標FWを満たしつつ、慣性モーメントが小さくなります。

 

ローラーナックルの黒鉛落とし
ローラーナックルには黒鉛がべっとりと付いていました。
この黒鉛はFを大きくしますので出来る限り落とします。
中央から右が黒鉛を除去しローラーを整形した状態、
左は元の状態です。
黒鉛を落としたあと、ローラースキンを軽くシェービングし
仕上げにPTFEを塗布してあります。
サポートとジャックの黒鉛の塗られた部分、
そして下側のレペティションスプリングの当たる部分を
よくなめしておきます。

 

キーピン磨き
前後キーピンもFに影響しますので綺麗に磨きます。
今回のピアノは手磨きではイマイチな仕上がりだったので
バフ掛けしてあります。
結果濡れたような艶が出て、ツルツルに仕上りました。
仕上げにPTFEをモールクリーナーで刷り込んで
キッチンペーパーでProLubeを刷り込んであります。
このピンの相手となる前後ブッシングクロスは
フェルトトリートメントでガタを修復した後
PTFEを刷り込んでからなめしておきました。

 

キャプスタン磨き
キャプスタンもFに影響してきますので
バフ掛けしツルツルに仕上げます。
こちらもPTFEとProLubeを施工してあります。

 

磨かれたキャプスタンとキーピン
キャプスタンとキーピンが綺麗に磨かれました。

 

黒鍵の塗装剥がれ
ピアノのオーナーさんがたくさん弾いている事を証明するかのように
黒鍵のサイドの塗装剥がれが目立ちます。

 

黒鍵を塗装
黒鍵脇の塗装の剥がれを
黒鍵専用塗料で塗っておきました。
また抜いた外側の大鉛の穴も塗装しておきました。
鍵盤鉛を抜いたあとの穴は
これまで埋め木をするのが一般的でしたが
せっかく外側の鉛を抜いて、慣性モーメントを小さくしたのに
また埋め木をして慣性モーメントが大きくなる事はしたくないので
そのままにしてあるのです。
Nさんによると強度は問題ないそうです。
白鍵はそのままでいいですが
黒鍵は木肌がちらっと見えてしまうと演奏中に気が散る可能性があるので
黒鍵にあいた穴は黒鍵塗料で塗装し目立たなくしてあります。

 

BW基準での鍵盤鉛調整
最後にBW基準で鍵盤鉛調整を行い完成です。

 

今一度、オリジナルの測定値がどうだったか確認しましょう。

 

C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g

 

という数値でした。

 

そして以下がタッチウエイトマネジメント作業後の実測値です。

 

C1 : DW53g , UW29g , BW41g , F12g
C#1 : DW52g , UW30g , BW41g , F11g
C2 : DW50g , UW30g , BW40g , F10g
C#2 : DW51g , UW27g , BW39g , F12g
C4 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#4 : DW49g , UW32g , BW40.5g , F8.5g
C6 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#6 : DW47g , UW32g , BW39.5g , F7.5g
A7 : DW48g , UW31g , BW39.5g , F8.5g

SR = 6

 

このような結果に仕上がりました。
作業はBW基準で進めてあるのですが
Fをコントロール出来れば
自然とDW , UWは理想的な数値になる事が分かります。

これにくわえ、慣性モーメントも
アクション全体で15.7パーセント小さくなっていますので
かなり軽快なタッチに感じられる筈です。
DWは小さくなり、UWが増してますので
指に吸い付くようなタッチ感が期待できます。

あとは納品して微調整を済ませたら完了です。

 

【追記】
本日お客様のもとへアクションを納品、調整してきました。
さっそく仕上がりを確認頂いたところ
「凄い!全然違いますね。変わるものなんですね」
「たくさん弾きます!」と
大変喜んで頂けました。

 

今回のピアノと同じようなケースが該当する方も居られると思います。
後付けの鉛を追加してもらって
計ると確かにDWは小さくなっているが、弾いた感じはあまり軽くない。

その場合、調整しなければならないのは
慣性モーメントであったり、ギアレシオ
あるいはFである可能性があります。

 

ピアノの鍵盤が重い、あるいは軽過ぎてお困りであれば
タッチウエイトマネジメントで解決出来るかもしれません。

まずはメールでご相談くださいませ。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(データ採集、試行編)

DIAPASON 183-G
ディアパソンのグランドピアノ、 183-Gのお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
タッチウエイトマネジメントを行いました。

 

現在の状態のチェック
現在の状態をチェックしデータ収集します。

 

タッチの現状は

C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g

という結果です。

 

計算SRは6.2、
2g重りによるSRは、低音6、中音6、高音6.5でした。

6mm治具によるARは6です。

アクションスプレッドは113.5mm。

 

BWはさほど重くないようです。
Fが大きくその為DWが大きくなりUWが小さくなってしまい
タッチが重くなっています。

また以前このピアノを定期調律しておられた調律師さんが
顧客からタッチを軽くして欲しいと言われ
鍵盤底面のフロントブッシングクロス周辺に
6.6gと1gの板鉛が貼ってあります。
Fの処置をしないまま、外側に板鉛を追加したため
DWに変化がないばかりか
慣性モーメントはより大きくなって
ただただ重く弾き難いタッチになってしまっています。
後付けされたこの板鉛は取り外す事にして
さらに元々メーカーが入れた一番外側の大鉛を抜いて
BW基準で鍵盤鉛調整をやり直し
新たに追加する鉛を内側に寄せて
慣性モーメントを小さくする方向での調整を行います。

BWは特別重くはないので
現状維持もしくは近い値とし
Fが大きいのでこれを出来るだけ下げるよう調整するのが良さそうです。

 

smart chart

HSWを全鍵測定。黒が現状です。
メーカーオリジナルのハンマーは
重さのバラツキがかなり大きい事が分かります。

 

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントの算出に必要な
鍵盤テンプレートを作成します。
以前追加された板鉛も記載してあります。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナルのサンプルキーでの平衡等式を作成。

BWは標準に近い値で思った程大きくはありません。
Fは非常に大きいです。
FWはシーリング値を超えているものが多く
特に中音と高音で大きいようです。
板鉛が追加されているのでFWはその分余計に大きくなっています。
HSWは低音は小さく、
中音と高音ではピアノのサイズの割には大きめのようです。
SRは標準少し高めといったところです。

C4(40key)を3要素関連表でみると
HSW指標10で、SRが6の場合
FWシーリング値マイナス3gとするには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは38gですので
鍵盤の鉛量を増やしてBW38gを実現している事になります。

作業の方向性としては
BWは現状維持に近い値とする。
HSWは低音は大きくする方向で揃え
中音と高音は下げる方向で揃える事となります。
SRは既にパンチングの半カットを行っているが
6以上あるのでヒールへのスペーサー挿入で
もう一段階下げる、
最終的にFWはシーリング値を超えないよう調整。
Fは出来る限り軽減。
といった感じを想定します。

 

平衡等式を利用してシミュレーション
C4(40Key)で平衡等式を利用してシミュレーションしてみます。

 

数値は左から
DW , UW , BW , F , KR , WW , WBW , HSW , SR , FWシーリング値 , HSW指標 , AR となります。

HSWの指標を一段階下げBWを3g小さくします。
ヒールへのスペーサー挿入によりSRを0.4下げてBWをさらに4g小さくします。
(因に前回こちらで伺った際に、出先でパンチンングの半カットを行っていますので
SRは実際にはこの時点でオリジナルより2段階下がる事になります)
最後に下がりすぎたBWを鍵盤鉛調整により戻し
FWはシーリング値マイナス0.7gとなりそうです。
結果としてBWはオリジナルより若干増えますが
FWがシーリング値以下となり
Fを下げることで、今より弾きやすくなると思います。
この時点で C4(40Key)はDW57g , UW23gとなっており
伝統的な鍵盤鉛調整の考え方に固執していると
なんだちっとも軽くないじゃないかと思われるかもしれませんが
この時点ではまだDW , UWは気にする必要はありません。
現段階ではBW , FW , HSW , SRに注意しながら試行していけば問題ありません。
最終的にこのC4(40Key)がどういう値になったかは
次回の「作業編」で後述します。

 

FW比較計算表
FW比較計算表と慣性モーメント(鍵盤)計算表での試行。

一番外側の後付けされた板鉛を取外し
メーカーがDW基準で入れた外側の大鉛も抜いて
内側に鉛を追加することで目標FWを達成する
効率的作業を選択します。

 

BWと慣性モーメント値の比較
最終的にBWはオリジナルの38gから40gとなり5パーセント大きくなりました。
その分慣性モーメントは、アクション全体で15.7パーセント小さくなっています。
あとはFの処置を徹底的に行えばDWは小さく、UWは大きくなり
軽快で指に吸い付くようなタッチを得られるようになる筈です。

 

作業編に続きます。

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
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ヤマハC7のタッチウエイトマネジメント

ヤマハ C7
ヤマハのグランドピアノ C7 のお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
アクションをお預かりしてきて
タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
を実施しました。

 

製番3670XXX、昭和58年納品で年数なりに
そこそこの頻度で弾いていた様子が
弦溝やローラー、ブッシングの状態から見受けられます。
弾き過ぎてもいないし、弾かなすぎてもいない、そんな状態です。

 

お父様と息子さん(といっても大人)、お二人とも弾くピアノで
とくに息子さんのほうが、ある程度の時間弾いていると
手が疲れてくるという事です。
私が少し弾かせて頂いた感じでは、丁度良い重さに感じるのですが
長時間弾いた訳ではないのと
タッチの感覚は人それぞれ感じ方が違って当たり前なので
出来るだけ依頼者の希望に沿う形で仕上げたいと思います。

 

オリジナルのサンプル音

オリジナルのサンプルキーでの平衡等式。
2g重りによるSRは6.0。
6mm治具によるARは5.8。
BWは気持ち大きい鍵盤もありますが、ひどく重い訳ではないです。
Fはとくに低音で大きいです。
HSWは指標9から指標11の間でバラツキありで概ね指標10。
C7サイズであれば問題のない範囲。
FWは大きくシーリング値を超えています。
アクションスプレッドは112.5mmで問題なし。
シャンクフレンジ及びウィペンフレンジのトルクは
ともに概ね3g程度で許容範囲です。
気になる点としては、鍵盤調整がされておらず
鍵盤フリクションは中音では3gから5gとまずまずですが
低音と高音は6gから7.5gと大きいので
鍵盤調整はしっかり行う必要があります。
前後キーピンやキャプスタンといった
金属部品は触るとベタつきがあり
過去に磨かれた形跡もありません。
ローラーは特によく弾かれる中音域を中心に
黒鉛がかなり付いています。
これらの状態から、フリクションはそれなりに下げられると予想します。

 

 

3要素関連表で調べてみると
HSWが#10で、SRが6.0の場合
FWがシーリング値マイナス3gを達成するには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは36gから42gですので
鍵盤手前側の鉛が多過ぎたり配置の問題が考えられます。
ピアノのサイズからもデータからも
弾き手が重いと感じる要素に
慣性モーメントの影響が大きい感じなので
BWは37g程度にして、慣性モーメントも
出来るだけ下げる方向での調整を考えます。

 

サンプル音での試行
C1(4key)を平衡等式を使って試行。
HSWは最大で0.7g減とし、#10.5から#9.5に。
SRはヒールへのスペーサー挿入と
パンチングの半カットで2段階下げ、
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行い
BWは37g、FWはシーリング値マイナス1gになりそうです。

 

試行結果の最後でC1(4key)のDWが58g、UW16g、BW37g、F21gです。
Fが大きく、これを下げればDWは小さく(軽く)、
UWは大きくなる筈です。
(実際に作業後のC1(4key)実測値は
DW53g、UW21g、BW37g、F16g となり
最低音C1(4key)として問題のない数値を得ました)

 

HSW
HSWを全鍵測定。
黒がオリジナルで赤が調整後です。
基本的に減量して慣性モーメントを小さくする方向で
同時にバラツキがなくなるように揃えました。
最低音部は指標11だったのを指標10から指標9.5と下げ、
中音、高音は指標9で揃えました。

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントを算出するために
サンプルキーの鍵盤テンプレートを作成。

 

FW比較計算表
目標FWを満たす鍵盤鉛の配置と
同時に慣性モーメントの値が小さくなるよう試行します。
鍵盤の最も手前側(外側、弾き手側)の鉛は抜いて
奥側に新たな鉛を配置する効率的作業を選択しました。

 

BWとMoI比較
各アッセンブリー単体では
ウイペン以外は全てオリジナルより慣性モーメントが小さくなり
BWはオリジナルから5パーセント減、
アクション全体での慣性モーメントは
11.1パーセント減となりました。

フリクションを下げるための作業として
前後キーピンとキャプスタンのベタツキを取り除いてから磨き直し。
バランスホールの清掃、前後ブッシングクロスの潤滑。
ローラーの黒鉛を取り除き、少し整形した後テフロンを塗布。
ヒールクロスの汚れ落としと潤滑。
レペティションスプリングのべたつきの除去、
等々を丁寧に行ってあります。

 

アクションを納品後、再度調整を済ませました。
あらかた整調と下整音は済ませてあったので
僅かな修正で済みました。

 

仕上がり確認のため、お客様に弾いて頂いたところ
「おぉー!凄い楽。結構違いますね。」と
とても喜んで頂けました。

 

鍵盤の重さでお困りの方が居られましたら
この手法によるタッチの改良を試してみては如何でしょうか。

 

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