グランフィールの取付け(ヤマハUX10Bl)

Granfeel
ヤマハのアップライトピアノ、UX10Blに
「グランフィール」を取付け。

 

小学生のお嬢さんも徐々にピアノが上達してきて
アップライトアクションの性能では
上手く連打やトリルが弾けなくなってきたようで
グランフィールを取付ける事に。

以前よりは世に知られるようになったグランフィールですが
まだご存知ない方の為におさらいを。
「グランフィール」はお手持ちのアップライトピアノで
グランドピアノ同等の連打、トリルの性能を実現し
響きまでグランドピアノに近づく技術です。
細かい事を言うともっと色々あるのですが
ざっくり言えばそんな感じ。
既にアップライトピアノをお使いであれば
グランドピアノに買い換える事なく
アップライトピアノの性能を格段に向上させる事が可能です。

 

グランフィールを取付ける為にアクションをお預かりしてきましたが
若干の問題が...

 

ダンパーストップレール
このUX10Bl、ダンパーストップレールが
次高音の途中(ダンパーの切れ目)までしかありません。
一般的なアップライトピアノの場合は
最低音から最高音までをカバーするような
長いダンパーストップレールが取り付いています。
(要するに両端のブラケット間で取り付いています)
昨今はコストダウンのためかダンパーストップレールが
途中までしか伸びていないピアノも珍しくないですが
この時代(製番4581XXX)のヤマハでも
こういう事があるようで、注意が必要です。

 

グランフィールパーツの一部は
このダンパーストップレールを利用して取付けますので
高音部分まで伸びていないと上手くありません。

 

ダンパーストップレール2
もっともこのピアノの場合は心配ありません。
ヤマハから標準長のダンパーストップレールを取り寄せ。
上(猫側)が一般的な長さのダンパーストップレール。
下がこのピアノに元々付いていた短いダンパーストップレール。
高音ブラケットには、ストップレールをとめる為の穴こそあいていますが
ネジが切ってないので、M5でタップを切り
無事、最高音までカバーするストップレールが取付け出来ました。

 

グランフィールの取付けを希望される方の中で
最近ご要望の多いオプション作業が
「バックストップ方式」を「グランド仕様」にするというもの。

アップライトのバックチェック
上の写真で緑色のクロスが付いた部品が
一般的なアップライトピアノのバックチェック。
ハンマーアッセンブリーのキャッチャーという
スキンの貼ってある部品を
この緑色の部分でキャッチする訳です。
(弦を叩いたあと戻ってきたハンマーアッセンブリーを緑色の部分で受け止める)

 

グランド仕様のバックチェック
グランドピアノ仕様のバックチェックに交換していきます。
グランドピアノでは緑色のクロスではなく
上のようにバックチェックはスキンとなっています。

 

アップライトのバックチェック
そしてこちらはアップライトのキャッチャー。
この鹿革の貼られた部分を、先ほどの緑色のバックチェックが受け止めるのが
一般的なアップライトのバックストップ。

 

それを

 

キャッチャーへのスカッチ入れ
鹿革を剥がし、ベルトサンダーでキャッチャーを
GPハンマーテールのアールに成形し
横溝(スカッチ)を入れます。
グランドピアノのバックチェックが咥えるのは
スカッチの入ったハンマーテール部分です。
アップライトでは、キャッチャーがGPハンマーテールに相当しますので
このようにキャッチャーをGPハンマーテールと同じ様に加工し
バックチェックもグランド仕様に交換する事で
グランドピアノと同じバックストップ方式を実現します。
実際の効果ですが、アップライトのもっさりしたタッチ感が減り
スッキリしたタッチ感を得られます。

 

その他、ダンパーレバーとスプリングの接点での雑音対策や
下針を入れてハンマーファイリング、
金属パーツの磨き直しや各部潤滑、清掃をしています。
もちろんハンマーバット加工も行っています。
(グランドピアノのタッチを実現するのにとても重要な加工です)

 

アクションを納品して、調整を済ませたら
見た目はアップライトなのに
タッチと響きはグランドピアノという
グランフィールピアノの完成です。

 

お客様に試弾して頂いたり、音を聴いてもらい
響きとタッチがグランドピアノになっている事を
確認してもらって作業完了です。
とても満足頂けたようでした。
「低音セクションの響きが良くなった」と仰ってて
確か以前もそんな感想を、
別のピアノにグランフィールを取付けた時にももらったような。
これはグランフィールのパーツの働きにより
(ショット&ドロップスプリングといいます)
普通のアップライトピアノでは出す事の出来ない高次倍音が
豊富に出るようになった事によるもので
グランドピアノの音を聴いたときに
アップライトピアノにはない華やかさを感じる理由の一つはここにあります。

 

アップライトピアノの性能に限界を感じてきた方々、
グランフィールの取付けを検討してみては如何でしょうか。

 

「グランフィール」については
以下のページに詳細を掲載しております↓
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html

 

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

グランフィールの取付け(ペトロフ P 131)

PETROF P 131
ペトロフ P 131グランフィールを取付け。

高さ120cmクラスのペトロフはわりと見かけますが
このピアノは130cmクラスの「ハイエスト・シリーズ」で
コンサート用アップライトに位置づけられるモデルです。
国産小型グランドに負けない音色を奏でます。

鍵盤の弾き心地もグランドピアノのような
奥行きの長いピアノを弾いているような感覚を得られます。
その理由は...

鍵盤鉛
バランスピンの前後に鍵盤鉛を配置することで
慣性モーメントを大きくし
奥行きの長い大きなピアノを弾いているようなタッチにしてあります。
BWは42g程度で、このクラスのピアノでは普通の値ですが
数値以上にどっしりとした弾き心地となっています。

レペティションスプリング
アクションはペトロフレンナーではなくフルレンナーです。
レペティションスプリングやドロップスプリングを取付け
ハンマーバット加工等を行い
グランフィールピアノとなるよう仕上げます。

納品調整後、お客様に感想をお伺いしたところ
「低音の響きが良くなった」とのこと。
ドロップスプリングが搭載されたことで
高次倍音が豊富に出るようになりましたので
華のある音の響きになっています。

グランフィールを取付ける前は
グランドのような弾き応えのある鍵盤だけど
何かが足りない印象のタッチでしたが
レペティションスプリングが取り付いたことで
上手く不足分が補え、反応の良い鍵盤となり
非常にコントロールしやすいタッチのピアノに生まれ変わりました。

 

「グランフィール」については
以下のページに詳細を掲載しております↓
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html

 

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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グランフィールの取付け(ヤマハU3F 昭和46年納品)

バット加工
昭和46年に納品されたヤマハU3Fにグランフィールを取付け。

 

いわゆる大人のピアノ(復活組)で、
納品当初は今回ご依頼くださいました奥様が弾いていて
その後子供さんが使い、再び奥様が使う事になりました。
こんなに長く活用頂いてU3Fも喜んでいる事でしょう。

 

グランフィールを取付けるにあたって
アクションをお預かりしてきましたが
湿度が適切でない環境(湿度が高い)に置いている為
フレンジは若干のスティック傾向です。
特に酷いフレンジはセンターピンを交換しトルク調整して
軽度のものは潤滑処理しておきました。

バットフレンジコードも大半が切れていたので
センターピン交換と同時進行で張り替えておきました。
フレンジコードの貼り替え修理とフレンジのトルク調整は
同時に行うと効率が良いです。

 

レペティションスプリング
アップライトピアノに足りないパーツ達
(レペティションスプリング、ドロップスプリング等)を取付け、
グランドピアノの部品形状と違う部分を修正し
アップライトピアノでありながら
グランドピアノ並の性能と響きを実現します。

 

グランフィールのよくあるお問い合わせとして
「少し古いピアノなんですが、取付け出来ますか?」
とのご質問を頂きます。
実は古いピアノのほうが構造がベーシックである事が多く
意外なほどグランフィールとの相性が良いのです。

 

調整を終えてお客様に弾いて頂いたところ

  • 鍵盤が軽く感じる
  • 鍵盤が指に吸い付くような感じがする

と、とても喜んで頂きました。

 

実は作業前にお客様が
「なんか鍵盤が重たく感じるんですよねー」
と仰っていたので、
その辺りも調整に加味しておいたのです。

 

ダンプチェイサー
多湿傾向でスティックぎみでしたので
ダンプチェイサーも取付けました。

 

グランフィールが取り付いた事で
ますますU3Fは活躍してくれそうです。
グランドピアノ並のタッチと響きを楽しんでください!

 

「グランフィール」については
以下のページに詳細を掲載しております↓
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渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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カワイGX-2のタッチウエイトマネジメント

カワイGX-2
カワイのグランドピアノGX-2のタッチウエイトマネジメントを行いました。

カワイのピアノを使っている方に多い
「音色は気に入ってるんだけど、なにしろ鍵盤が重くて...」
というものです。

 

このピアノを弾くのは高校生で
タッチウエイトの不満と要望は

・短い曲なら何とか弾ききる事が出来るが、長い曲になると途中で手が疲れてしまう
・今より少し軽くして欲しい
・スタインウェイや軽かった時代のヤマハほどは軽くしたくない

といった内容です。

 

話しを伺うと、このグランドピアノの前に使っていたのもカワイのアップライトで
カワイの重たいタッチには慣れているものの
それにしても新調したグランドは鍵盤が少し重いので
もう少しだけ楽に弾けるように軽くなると良いとの事。

依頼者の希望するタッチウエイトが割と明確なので
作業する側としても青写真が描きやすく助かります。

 

そして昨日、仕上ったアクションを納品し調整を済ませました。
お客様からは
「タッチ、とても良い、弾きやすい」との感想を頂戴しました。
弾き手の思い描く理想のタッチウエイトに調整されると
何時間でもピアノを弾いていられるようになります。

 

ピアノは納品されてまもないGX-2で
整調は概ね問題ないものの
中音下あたりのダンパー掛かりが遅く
ダンパーが上がりきっていないのと
総上げもバラツキがあったので、修正しました。

少し弾かせて頂いた感じで
すぐに「重い!」と感じるくらいにタッチの重いピアノです。
アクションをお預かりして重さの原因を分析し調整します。

 

オリジナルの平衡等式
サンプルキーでのオリジナルの平衡等式。

BWは49g前後と重め。

HSWは低音は指標9.5前後で思ったほど重くないですが
次高音から最高音は指標10から11と重め。

平衡等式から得られるSRは6.3から5.9。
2g治具で低音が6.5と高め、中音と高音は6.0。

Fは鍵盤によって若干高め。

FWは予想に反し小さめのキーが多いです。

6mm治具によるARは5.7。

 

今回は今より少し軽く作業ですので
HSWを一定量下げて
SRは一段階だけ低くして
BW基準の鍵盤鉛調整をすれば
顧客の希望するタッチになりそうです。
目標とするBWは43gにして
慣性モーメントも少し小さくすることで
長時間弾いても疲れないタッチを目指します。

 

オリジナルのHSW
オリジナルのHSWスマートチャート。

低音は指標9から10、中音割振り付近で指標11のものがあり
次高音から最高音も指標10から12と重めでした。

全域を指標9.5くらいまで下げて
BWと慣性モーメントを小さくする方向で調整します。

 

鍵盤テンプレート
慣性モーメントも変更したいので
鍵盤テンプレートを作成。

 

 

FWと慣性モーメント
オリジナルのFWが小さかったので
慣性モーメントを操作しない作業ならば
Dの「別の効率的作業」で、外側の鉛を僅かに削れば
それで目標FWとなりますが
慣性モーメントも小さくしたいので
Cの「効率的作業」、外側の鍵盤鉛は抜いて
内側に移動する作業を選択します。

今回はC0Gも意識して鍵盤が効率的な運動をするよう調整します。
このキーではC0Gが0.430となっています。

 

オリジナルと作業後の比較
BWが9パーセント小さくなり
慣性モーメントは5.8パーセント小さくなる
という結果が得られました。

 

 

HSW調整後
調整後のHSW。

指標9.5くらいで綺麗に揃いました。(赤丸)
音色のバラツキも解消されそうです。

 

カワイのウイペン、スティック修理
弾いた感じ妙に重く弾きにくいのと
Fが大きめの鍵盤がある事から大体想像はつきますが
カワイのプラスチックアクションがスティックを起こしていました。
今年は特に8月が長雨でしたので
カワイ使用者からのスティック修理依頼が急増中...

新品ですが、少しでも湿度が高いと
カワイのアクションはスティックを起こすので注意が必要です。

お客様はエアコンこそ24時間運転しているものの
湿度計で確認している訳ではなかった為
実際に湿度が下がっているかは確認しておらず
「多分乾いてるんでしょう?」という程度の運用でした。
実際の湿度をチェックしてみると室温26度で湿度60パーセントでした。
この室温だともう少し湿度が低いほうがいいですね。
木製アクションのピアノならば
この程度の湿気であれば普通に動いてしまうところ
カワイのアクションだとスティックしてしまうようです。

ダイキンのエアコンをご使用で
このエアコンならば本来はもっと除湿能力が高い筈ですが
購入から5年は経過していて
その間、クリーニングを行っていないとの事で
除湿性能がかなり落ちているものと思われます。
3年から5年に一度、
メーカーに「分解洗浄」を依頼すると
驚く程エアコンの性能が復活しますので
ピアノの定期調律と同様、エアコンの「分解洗浄」も定期的に行う事をオススメします。
そのうえで湿度計で湿度をチェックして
任意の湿度まで下げられない場合は
関東地方であればコンプレッサー式の除湿器を
エアコンと併用して頂ければ、適湿まで下げられるでしょう。

ウイペンフレンジのスティックが特にひどく
10g超えでトルクゲージを振り切ってしまうフレンジが多数。
サポートフレンジも同様で、ジャックは6gから8gとやはり高め。
シャンクフレンジは2gから3gと問題なく
これはシャンクだけは木製だからで
雨が多く、湿度の高い日本では
プラスチックアクションは少々扱いにくいです。
カワイの場合はシャンクだけ確認して動いていても
下部のウイペンアッセンブリーは総プラスチックなので
こちらがスティックしている場合があるので要注意です。

全てのフレンジのトルクをチェックし
適正トルクに修正しておきました。

 

キャプスタン
キャプスタンの状態ですが
右がカワイのオリジナル状態、
左が研磨後です。

納品したての新品でも
傷がありデコボコしていましたので
1500番から2000番のペーパーを掛けてから
バフ掛けし鏡面仕上げにしました。

ドロップスクリューも似たような状態でしたので
こちらも磨き直しています。

 

 

鍵盤の鉛抜き
BWを小さくして慣性モーメントも小さくする作業なので
事前に手前側(外側)の 鉛を抜いてしまいます。

カワイGX-2のオリジナルの鉛の配置は
かなり外側に寄せて入れていました。
DW基準で入れているからでしょうが
これでは慣性モーメントが大きくなってしまいます。

鉛のかしめは甘く、簡単に抜き出す事が出来ました。

 

BW基準の鍵盤鉛調整
BW基準の鍵盤鉛調整で
新たに鉛を入れる位置を決めます。
今回は少し重めとしますのでBWは43gとし
事前のシミュレーションで得られた
慣性モーメントを小さく出来、
且つ目標とするC0Gを満たす位置になるよう
鉛の位置を決めていきます。

 

鍵盤の鉛入れ
新たな鍵盤鉛は内側に寄せて入れました。
音域により、元の鉛よりサイズを小さく出来たり
鍵盤によっては新たな鉛を必要としないキーもあります。
タッチウエイトマネジメントでは
鉛の位置を内側に移動出来たり
鉛のサイズを小さく出来たり、鉛の数を減らせたり出来ますので
タッチウエイト変更の自由度が高く
またその組み合わせも多様です。

 

  • 鍵盤が重いので軽くしたい
  • 鍵盤が軽過ぎるので重くしたい

等の
タッチウエイトの調整、承ります。

まずはメールでお問い合わせくださいませ。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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精密タッチウエイトマネジメント(FW基準の鍵盤鉛調整)

鍵盤鉛調整の穴あけ
お客様からのご依頼でヤマハのグランドピアノ C3 の
精密タッチウエイトマネジメント(FW基準の鍵盤鉛調整)を行いました。

 

お客様が抱えるタッチの悩みとご希望は

 

 

  • 鍵盤の重さにバラツキを感じる
  • 繊細なフレーズ、速いパッセージでの弾きにくさ
  • 連打で重く感じる
  • トリルやトレモロが入りにくい
  • 長時間弾くのが辛い
  • 理想はスタインウェイのタッチ

 

といった内容です。
結果から申し上げますと
調整後お客様に弾いていただいた感想は
「ずっと弾いていられる!」
「まったく別のピアノになったみたい!」
と軽快なタッチと雑味の無い音色にとても満足頂けたようです。

 

私が試弾させて頂いた感想としては
FW基準で精密に行った鍵盤鉛調整と
なめらかなラインのHSW調整の組み合わせにより
最低音から最高音までのタッチのつながりの良さと
いっさいバラツキを感じない弾き心地が、弾いていて心地良い事。
また慣性モーメントを下げた事により
指先から腕までの負担が確実に少なくなっている事が体感出来、
お客様同様、
「ずっと弾いていられる」
「さっきまで弾いていたのに、またすぐピアノに向かいたくなる」
そんなタッチのピアノに仕上ったと思います。
以前ザボンが使われた高音部ハンマーの音を
中音セクションからきれいに繋がるようにするのに
少々苦労しましたが、音色のほうも満足いく仕上がりとなりました。

 

それでは作業の概要について。

 

比較的新しいピアノで、SNは 624XXXX (平成20年納品)です。
概ね製番600万番台以降では
今回のお客様と似たような印象(鍵盤が硬い、重い)を受ける方が多いようです。
実際にお伺いして弾かせて頂いたところ
全体としてみると重く、白鍵よりも黒鍵が重い。
低音セクションは特に重く、中音からは少しマシになり
最高音は逆に少し軽過ぎるといった印象です。

 

お客様のご希望で一部パーツを作業と同時に交換します。
オリジナルの頭の平たいキャプスタンを
頭にアールのかかったスタインウェイ純正キャプスタンに変更します。
スタインウェイのキャプスタンはヤマハのものより1g程度重いので
作業後に交換するとタッチウエイトに微妙に影響してくるので
先にキャプスタンの交換を済ませてしまい
それから各種データの採寸に取り掛かります。

 

オリジナルのサンプル音での平衡等式
まずはオリジナルのサンプル音で平衡等式を作成し現状分析します。

 

BWは重めでバラツキあり。
HSWは低音で指標10超えと重くバラツキが大きく
中音と次高音は指標8.5から9付近で比較的バラツキは少ないです。
FWはシーリング値付近。
Fは小さめ。

 

SRは2g重りによる計測で5.8、計算SRも5.8。
ARは6mmジグで5.5、計算ARは4.9でした。
アクションスプレッドは112.5で問題無し。
フレンジトルクは1.6gから2gと小さめ。

 

その他気付く点としては
ローラーには黒鉛がかなり付着していて
初動では問題ないものの
ジャックの脱進時に雑音と共に指先に不快な抵抗を感じます。
前後キーピンとキーブッシングクロスは
汚れていてベタツキがあります。
鍵盤バランスホールも同様に黒く汚れています。
また直接タッチウエイトと関係ありませんが
次高音から最高音にかけてザボンが使われていて
ハンマーがガチガチに硬くなっています。

 

平衡等式でシミュレーション
サンプルキー16(C2)の平衡等式上でのシミュレーション。
HSWを指標10から指標9.5へ下げBWを2g下げます。
本当はもう少し下げたいのですが
後述のHSWチャートを見て頂くと分かりますが
低音のHSWはバラツキが大きく、高いところでは指標11というハンマーもあるので
現実的にバラツキを揃えるには指標9.5付近となります。
中音から最高音までは指標9でいけそうです。

 

次にヒールへのスペーサー挿入で
SR0.4減を見込みます。

 

さらにバランスパンチングのカットでSRを0.4下げます。
今回はFW基準で作業を進めていくので
パンチングのカットは最終段階まで手をつけません。
SRの低減はウイペンヒール側で担い
バランスパンチングは、SRの誤差修正としての役割を持たせます。

 

シミュレーションの結果、
最終的にBW37g、FWシーリング値マイナス3gに持っていけそうです。

 

鍵盤テンプレート
BWと同時に慣性モーメントも小さくしたいので
鍵盤テンプレートを作成します。

 

FW比較と慣性モーメント計算表
鍵盤手前側の14mmの鉛を抜いて
内側に鉛を追加する「効率的作業」を選択します。

 

オリジナルと作業後の比較
BWが14パーセント小さく(軽く)なり
アクション全体での慣性モーメントは7.4パーセント小さくなるという結果になりました。
まずまず軽快なタッチに仕上がりそうです。
今回はFW基準の鍵盤鉛調整を行いますので
HSWを一定の指標で揃え
FWもシーリング値マイナス3gで一定に揃え
理屈の上では揃って来る筈のBWですが
SRの誤差がBWに誤差として出てくるので
最後にSRを微調整してBWを揃えるという流れになります。

 

 

HSW軽減
HSW増量
HSWスマートチャート
HSWスマートチャート。
黒がオリジナルで、低音は重くバラツキも多く
低音と中音の境目でいきなり軽くなって
そのあと中音と次高音は指標9付近でまずまず。
最高音で再び重くなっています。
HSW調整後が赤で
低音は指標9.5付近でバラツキを揃え
中音から最高音までは指標9でほぼ綺麗に揃いました。
これによりタッチのバラツキもなくなると同時に
音色のバラツキも無くなる事が期待出来ます。
0.1g単位で調整します。

 

ウイペンヒールにスペーサーを挿入
ヒールにスペーサーを挿入し
SRが0.4程度下がることを見込みます。

 

オリジナルのフロントウエイト
ヤマハC3オリジナル状態のFWチャートです。
なめらかな曲線はシーリング曲線で
このシーリング曲線から一定量低い値で
滑らかな曲線を描くのが理想ですが...
オリジナルのFWはかなりのバラツキがありました。
低音ではシーリング値を境に極端に重い鍵盤や軽いものがあり
中音はシーリング値マイナス3gで
良さそうな部分もありますがやはりばらついていて
最高音も同様です。

 

新たな鍵盤鉛の位置決め
FW基準での鍵盤鉛調整。
新たな鍵盤鉛の位置決めをします。
先のシミュレーションでシーリング値マイナス3gとすることと
換算慣性モーメントが7.4パーセント小さくなる位置を
シミュレートしていますので
それに準ずる形で新たに鉛を入れる位置を決めていきます。

 

鍵盤鉛挿入

一番手前の鍵盤鉛は抜いて
内側に鍵盤鉛を追加しました。
一鍵ごとにFWシーリング表を確認しながら
シーリング値マイナス3gを満たしつつ
慣性モーメントが小さくなる位置に鉛を追加していきます。
0.1g単位で調整します。

 

鍵盤の肉抜き
最高音セクションの処理です。
FWを0.2g、0.3g軽くあるいは重くしたい状況で
鍵盤鉛を追加したくないような場合の措置です。
上の鍵盤は鍵盤の後ろ側を肉抜きする事でFWを大きくし
下の鍵盤は鍵盤の手前側を肉抜きしてFWを小さくしています。

 

フロントウエイト調整後
全鍵のFWを調整しました。(赤が調整後)
シーリング曲線(黒)から一定量低い位置で
ほぼシーリング曲線と似たラインを描いています。
例えBWを88鍵綺麗に揃えたとしても
HSWやFWがばらついていたならば
演奏した時にタッチが揃っている感覚は得られないという考えに基づきます。
ここまでの作業でHSWはほぼ綺麗に横並びに揃えてあり
FWもほぼ綺麗に揃いましたので
最終的なタッチはかなり揃ってくるのではないかと期待が高まります。

 

バランスパンチングのカット
ここまでの作業を終えると
自動的にBWも揃う...とはいきません。
何故なら各鍵ごとにSRの誤差がある為
その誤差がBWの誤差となってきます。
その為BW基準の鍵盤鉛調整を行うタッチウエイトマネジマントでは
一律に半カットしていたパンチングクロスですが
今回はSRの最終調整用にとカットせずに残してありました。
FW基準での鍵盤鉛調整では
最後にパンチングクロスのカット率を微妙に変えながら
SRの誤差を調整し、BWを揃えます。
すると写真のようにパンチングのカット具合が
鍵盤ごとに微妙に変わってきます。
この技術を知らない調律師さんが
これを見たら「?」となるかもしれません。
バランスキーピンに刺さっているはずのパンチングクロスが
鍵盤の底に貼付けてあり、しかもカットされていて
さらに切り方は不揃いであると...
この技術が国内に浸透するにはもうしばらくかかりそうです。

 

その他、付帯作業として行ったのは

  • キャプスタンの汚れ落としと潤滑
  • バランスキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • フロントキーピンの清掃、バフ掛け、潤滑
  • キーバランスホールの汚れベタつき除去
  • 前後キーブッシングクロスの汚れ落としと潤滑
  • ヒールクロスの汚れ落としと潤滑
  • ローラーの黒鉛落としと潤滑
  • ジャックトップとサポートトップの黒鉛なめし
  • 人工象牙のざらつきを研磨修正
  • 白鍵サイド木部の汚れ落とし
  • 黒鍵手前の鉛を抜いた穴は黒鍵専用塗料を塗布
  • 黒鍵サイドの塗装の剥がれを黒鍵専用塗料で塗装
  • ハンマーファイリングを含む下整音処理(納品時再調整)
  • 下整調(納品時再調整)
  • etc

 

 

最後にARを測定しなおすと5.5から5.2に下がっていますので整調の際に注意が必要です。
ARと鍵盤手前長さ、測定点から算出される
このピアノに必要な打弦距離とあがき量は
打弦距離44mmから45mmで、あがきは10.2mm程度である事が分かりましたので
この寸法を目安として注意深く整調を行います。
レシオを大きく変更した場合
メーカーの基準寸法に固執していると整調が成立しなくなります。

 

軽快なタッチだった全盛期のヤマハのグランドピアノから
製造番号600万番台以降の新しいヤマハのグランドピアノに買い替えた方々からは
「以前のピアノのほうが弾きやすかった」という意見をわりと頂戴します。
最新のヤマハでも、かつてのヤマハのような
軽快なタッチに改良出来ますので、まずはメールでご相談くださいませ。
精密なタッチの調整、承ります。

 

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)

 

渡辺ピアノ調律事務所
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ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(作業編)

ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメントの続きです。

 

前回、データの採集、分析、試行をした結果をもとに
実際の作業に取り掛かります。

 

HSW測定
HSWを全鍵測定します。
その他にWWやFW , KRも測定しておきます。
念のためアクションスプレッドと
二つのマジックラインも確認しておきました。

 

HSWの減量
重過ぎるハンマーはテーパーをもう少し削るか
テールもしくはアーク部を削り0.1g単位で減量します。

 

HSWの増量
軽過ぎるハンマーは
専用の鉛を入れて増量します。
こちらも0.1g単位で調整します。

 

smart chart

黒がオリジナル、赤が調整後です。
全体を見ると、低音が極端に軽く、
中音と高音はそこそこ重いという状態です。
低音は平均指標7といったところですが

最も軽いところで指標5ですので
どう頑張っても理想的な並びにはなりませんので
隣合うハンマーでのバラツキを揃える方向で調整しました。
中音と高音は指標9から10で出来る限り揃うように調整しました。

 

 

ハンマーのファイリング
ハンマーは針の下入れとファイリングをしておきます。
(中央から左がファイリング後、右がファイリング前)
今回は攻めのファイリングではなく
ピアノに優しいファイリングを行っています。
一般家庭のピアノが長くお使い頂けるよう配慮してあります。

ハンマー周りでは
71Gと77C#で膠切れの雑音が出ていたので直してあります。
ほとんどのシャンクフレンジがスティック直前の状態でしたが
61Keyだけガタが出ていたので修正してあります。
その他のシャンクフレンジはトルクが大きいので
標準値にトルク調整しておきました。

 

ヒールへのスペーサー挿入
ヒールにスペーサーを入れSRを下げます。
同時にARとギアレシオも変わるので
確認しながら進めていきます。
この作業は本来ウィペンを外さずに出来るのですが
今回はフレンジのトルクが大きく
トルク調整も同時に行う必要があり、一つずつ外して作業を行いました。
平行してヒールクロスの汚れべたつきをベンジンで拭き取り
クロスのへこみをフェルトトリートメントで修復しています。
ヒールクロスは仕上げにPTFEを刷り込みなめしてあります。
サポートの上面と裏のスプリングの接点(黒鉛の塗ってある部分)と
ジャックの頭はスムーズな動作をするようなめしておきます。
新たな黒鉛は追加していません。

バランスパンチンングの半カットを以前行っていますので
SRはオリジナルより2段階下がることになります。

 

追加された鍵盤鉛

鍵盤鉛
鍵盤には後付けの板鉛が全鍵に追加されています。
この鍵盤(中音)では、元々メーカーが
DW基準で入れた鍵盤鉛が4つも入っているところに
さらに板鉛が外側に追加されている為
FWは大きく、慣性モーメントも大きくなってしまっています。

せっかく綺麗に貼ってくれた後付けの板鉛ですが
不要と判断されますので、全て取り外します。

 

鍵盤鉛を抜く
一番外側の鍵盤鉛を抜いていきます。

 

抜いた鍵盤鉛
外側の鉛を全て抜きました。

 

鍵盤に穴開け
新たに内側に鉛を追加するために
穴開け作業を行います。

 

新たな鉛を追加
新たな鍵盤鉛を追加していきます。
専用のポンチでかしめて固定します。

 

鍵盤鉛を内側に追加
外側の大鉛を抜き、内側に新たに鉛を追加しました。
目標FWを満たしつつ、慣性モーメントが小さくなります。

 

ローラーナックルの黒鉛落とし
ローラーナックルには黒鉛がべっとりと付いていました。
この黒鉛はFを大きくしますので出来る限り落とします。
中央から右が黒鉛を除去しローラーを整形した状態、
左は元の状態です。
黒鉛を落としたあと、ローラースキンを軽くシェービングし
仕上げにPTFEを塗布してあります。
サポートとジャックの黒鉛の塗られた部分、
そして下側のレペティションスプリングの当たる部分を
よくなめしておきます。

 

キーピン磨き
前後キーピンもFに影響しますので綺麗に磨きます。
今回のピアノは手磨きではイマイチな仕上がりだったので
バフ掛けしてあります。
結果濡れたような艶が出て、ツルツルに仕上りました。
仕上げにPTFEをモールクリーナーで刷り込んで
キッチンペーパーでProLubeを刷り込んであります。
このピンの相手となる前後ブッシングクロスは
フェルトトリートメントでガタを修復した後
PTFEを刷り込んでからなめしておきました。

 

キャプスタン磨き
キャプスタンもFに影響してきますので
バフ掛けしツルツルに仕上げます。
こちらもPTFEとProLubeを施工してあります。

 

磨かれたキャプスタンとキーピン
キャプスタンとキーピンが綺麗に磨かれました。

 

黒鍵の塗装剥がれ
ピアノのオーナーさんがたくさん弾いている事を証明するかのように
黒鍵のサイドの塗装剥がれが目立ちます。

 

黒鍵を塗装
黒鍵脇の塗装の剥がれを
黒鍵専用塗料で塗っておきました。
また抜いた外側の大鉛の穴も塗装しておきました。
鍵盤鉛を抜いたあとの穴は
これまで埋め木をするのが一般的でしたが
せっかく外側の鉛を抜いて、慣性モーメントを小さくしたのに
また埋め木をして慣性モーメントが大きくなる事はしたくないので
そのままにしてあるのです。
Nさんによると強度は問題ないそうです。
白鍵はそのままでいいですが
黒鍵は木肌がちらっと見えてしまうと演奏中に気が散る可能性があるので
黒鍵にあいた穴は黒鍵塗料で塗装し目立たなくしてあります。

 

BW基準での鍵盤鉛調整
最後にBW基準で鍵盤鉛調整を行い完成です。

 

今一度、オリジナルの測定値がどうだったか確認しましょう。

 

C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g

 

という数値でした。

 

そして以下がタッチウエイトマネジメント作業後の実測値です。

 

C1 : DW53g , UW29g , BW41g , F12g
C#1 : DW52g , UW30g , BW41g , F11g
C2 : DW50g , UW30g , BW40g , F10g
C#2 : DW51g , UW27g , BW39g , F12g
C4 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#4 : DW49g , UW32g , BW40.5g , F8.5g
C6 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#6 : DW47g , UW32g , BW39.5g , F7.5g
A7 : DW48g , UW31g , BW39.5g , F8.5g

SR = 6

 

このような結果に仕上がりました。
作業はBW基準で進めてあるのですが
Fをコントロール出来れば
自然とDW , UWは理想的な数値になる事が分かります。

これにくわえ、慣性モーメントも
アクション全体で15.7パーセント小さくなっていますので
かなり軽快なタッチに感じられる筈です。
DWは小さくなり、UWが増してますので
指に吸い付くようなタッチ感が期待できます。

あとは納品して微調整を済ませたら完了です。

 

【追記】
本日お客様のもとへアクションを納品、調整してきました。
さっそく仕上がりを確認頂いたところ
「凄い!全然違いますね。変わるものなんですね」
「たくさん弾きます!」と
大変喜んで頂けました。

 

今回のピアノと同じようなケースが該当する方も居られると思います。
後付けの鉛を追加してもらって
計ると確かにDWは小さくなっているが、弾いた感じはあまり軽くない。

その場合、調整しなければならないのは
慣性モーメントであったり、ギアレシオ
あるいはFである可能性があります。

 

ピアノの鍵盤が重い、あるいは軽過ぎてお困りであれば
タッチウエイトマネジメントで解決出来るかもしれません。

まずはメールでご相談くださいませ。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
url  http://www.piano-tokyo.jp/
weblog  http://www.piano-tokyo.jp/blog/

ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(データ採集、試行編)

DIAPASON 183-G
ディアパソンのグランドピアノ、 183-Gのお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
タッチウエイトマネジメントを行いました。

 

現在の状態のチェック
現在の状態をチェックしデータ収集します。

 

タッチの現状は

C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g

という結果です。

 

計算SRは6.2、
2g重りによるSRは、低音6、中音6、高音6.5でした。

6mm治具によるARは6です。

アクションスプレッドは113.5mm。

 

BWはさほど重くないようです。
Fが大きくその為DWが大きくなりUWが小さくなってしまい
タッチが重くなっています。

また以前このピアノを定期調律しておられた調律師さんが
顧客からタッチを軽くして欲しいと言われ
鍵盤底面のフロントブッシングクロス周辺に
6.6gと1gの板鉛が貼ってあります。
Fの処置をしないまま、外側に板鉛を追加したため
DWに変化がないばかりか
慣性モーメントはより大きくなって
ただただ重く弾き難いタッチになってしまっています。
後付けされたこの板鉛は取り外す事にして
さらに元々メーカーが入れた一番外側の大鉛を抜いて
BW基準で鍵盤鉛調整をやり直し
新たに追加する鉛を内側に寄せて
慣性モーメントを小さくする方向での調整を行います。

BWは特別重くはないので
現状維持もしくは近い値とし
Fが大きいのでこれを出来るだけ下げるよう調整するのが良さそうです。

 

smart chart

HSWを全鍵測定。黒が現状です。
メーカーオリジナルのハンマーは
重さのバラツキがかなり大きい事が分かります。

 

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントの算出に必要な
鍵盤テンプレートを作成します。
以前追加された板鉛も記載してあります。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナルのサンプルキーでの平衡等式を作成。

BWは標準に近い値で思った程大きくはありません。
Fは非常に大きいです。
FWはシーリング値を超えているものが多く
特に中音と高音で大きいようです。
板鉛が追加されているのでFWはその分余計に大きくなっています。
HSWは低音は小さく、
中音と高音ではピアノのサイズの割には大きめのようです。
SRは標準少し高めといったところです。

C4(40key)を3要素関連表でみると
HSW指標10で、SRが6の場合
FWシーリング値マイナス3gとするには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは38gですので
鍵盤の鉛量を増やしてBW38gを実現している事になります。

作業の方向性としては
BWは現状維持に近い値とする。
HSWは低音は大きくする方向で揃え
中音と高音は下げる方向で揃える事となります。
SRは既にパンチングの半カットを行っているが
6以上あるのでヒールへのスペーサー挿入で
もう一段階下げる、
最終的にFWはシーリング値を超えないよう調整。
Fは出来る限り軽減。
といった感じを想定します。

 

平衡等式を利用してシミュレーション
C4(40Key)で平衡等式を利用してシミュレーションしてみます。

 

数値は左から
DW , UW , BW , F , KR , WW , WBW , HSW , SR , FWシーリング値 , HSW指標 , AR となります。

HSWの指標を一段階下げBWを3g小さくします。
ヒールへのスペーサー挿入によりSRを0.4下げてBWをさらに4g小さくします。
(因に前回こちらで伺った際に、出先でパンチンングの半カットを行っていますので
SRは実際にはこの時点でオリジナルより2段階下がる事になります)
最後に下がりすぎたBWを鍵盤鉛調整により戻し
FWはシーリング値マイナス0.7gとなりそうです。
結果としてBWはオリジナルより若干増えますが
FWがシーリング値以下となり
Fを下げることで、今より弾きやすくなると思います。
この時点で C4(40Key)はDW57g , UW23gとなっており
伝統的な鍵盤鉛調整の考え方に固執していると
なんだちっとも軽くないじゃないかと思われるかもしれませんが
この時点ではまだDW , UWは気にする必要はありません。
現段階ではBW , FW , HSW , SRに注意しながら試行していけば問題ありません。
最終的にこのC4(40Key)がどういう値になったかは
次回の「作業編」で後述します。

 

FW比較計算表
FW比較計算表と慣性モーメント(鍵盤)計算表での試行。

一番外側の後付けされた板鉛を取外し
メーカーがDW基準で入れた外側の大鉛も抜いて
内側に鉛を追加することで目標FWを達成する
効率的作業を選択します。

 

BWと慣性モーメント値の比較
最終的にBWはオリジナルの38gから40gとなり5パーセント大きくなりました。
その分慣性モーメントは、アクション全体で15.7パーセント小さくなっています。
あとはFの処置を徹底的に行えばDWは小さく、UWは大きくなり
軽快で指に吸い付くようなタッチを得られるようになる筈です。

 

作業編に続きます。

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
渡辺ピアノ調律事務所
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ヤマハC7のタッチウエイトマネジメント

ヤマハ C7
ヤマハのグランドピアノ C7 のお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
アクションをお預かりしてきて
タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
を実施しました。

 

製番3670XXX、昭和58年納品で年数なりに
そこそこの頻度で弾いていた様子が
弦溝やローラー、ブッシングの状態から見受けられます。
弾き過ぎてもいないし、弾かなすぎてもいない、そんな状態です。

 

お父様と息子さん(といっても大人)、お二人とも弾くピアノで
とくに息子さんのほうが、ある程度の時間弾いていると
手が疲れてくるという事です。
私が少し弾かせて頂いた感じでは、丁度良い重さに感じるのですが
長時間弾いた訳ではないのと
タッチの感覚は人それぞれ感じ方が違って当たり前なので
出来るだけ依頼者の希望に沿う形で仕上げたいと思います。

 

オリジナルのサンプル音

オリジナルのサンプルキーでの平衡等式。
2g重りによるSRは6.0。
6mm治具によるARは5.8。
BWは気持ち大きい鍵盤もありますが、ひどく重い訳ではないです。
Fはとくに低音で大きいです。
HSWは指標9から指標11の間でバラツキありで概ね指標10。
C7サイズであれば問題のない範囲。
FWは大きくシーリング値を超えています。
アクションスプレッドは112.5mmで問題なし。
シャンクフレンジ及びウィペンフレンジのトルクは
ともに概ね3g程度で許容範囲です。
気になる点としては、鍵盤調整がされておらず
鍵盤フリクションは中音では3gから5gとまずまずですが
低音と高音は6gから7.5gと大きいので
鍵盤調整はしっかり行う必要があります。
前後キーピンやキャプスタンといった
金属部品は触るとベタつきがあり
過去に磨かれた形跡もありません。
ローラーは特によく弾かれる中音域を中心に
黒鉛がかなり付いています。
これらの状態から、フリクションはそれなりに下げられると予想します。

 

 

3要素関連表で調べてみると
HSWが#10で、SRが6.0の場合
FWがシーリング値マイナス3gを達成するには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは36gから42gですので
鍵盤手前側の鉛が多過ぎたり配置の問題が考えられます。
ピアノのサイズからもデータからも
弾き手が重いと感じる要素に
慣性モーメントの影響が大きい感じなので
BWは37g程度にして、慣性モーメントも
出来るだけ下げる方向での調整を考えます。

 

サンプル音での試行
C1(4key)を平衡等式を使って試行。
HSWは最大で0.7g減とし、#10.5から#9.5に。
SRはヒールへのスペーサー挿入と
パンチングの半カットで2段階下げ、
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行い
BWは37g、FWはシーリング値マイナス1gになりそうです。

 

試行結果の最後でC1(4key)のDWが58g、UW16g、BW37g、F21gです。
Fが大きく、これを下げればDWは小さく(軽く)、
UWは大きくなる筈です。
(実際に作業後のC1(4key)実測値は
DW53g、UW21g、BW37g、F16g となり
最低音C1(4key)として問題のない数値を得ました)

 

HSW
HSWを全鍵測定。
黒がオリジナルで赤が調整後です。
基本的に減量して慣性モーメントを小さくする方向で
同時にバラツキがなくなるように揃えました。
最低音部は指標11だったのを指標10から指標9.5と下げ、
中音、高音は指標9で揃えました。

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントを算出するために
サンプルキーの鍵盤テンプレートを作成。

 

FW比較計算表
目標FWを満たす鍵盤鉛の配置と
同時に慣性モーメントの値が小さくなるよう試行します。
鍵盤の最も手前側(外側、弾き手側)の鉛は抜いて
奥側に新たな鉛を配置する効率的作業を選択しました。

 

BWとMoI比較
各アッセンブリー単体では
ウイペン以外は全てオリジナルより慣性モーメントが小さくなり
BWはオリジナルから5パーセント減、
アクション全体での慣性モーメントは
11.1パーセント減となりました。

フリクションを下げるための作業として
前後キーピンとキャプスタンのベタツキを取り除いてから磨き直し。
バランスホールの清掃、前後ブッシングクロスの潤滑。
ローラーの黒鉛を取り除き、少し整形した後テフロンを塗布。
ヒールクロスの汚れ落としと潤滑。
レペティションスプリングのべたつきの除去、
等々を丁寧に行ってあります。

 

アクションを納品後、再度調整を済ませました。
あらかた整調と下整音は済ませてあったので
僅かな修正で済みました。

 

仕上がり確認のため、お客様に弾いて頂いたところ
「おぉー!凄い楽。結構違いますね。」と
とても喜んで頂けました。

 

鍵盤の重さでお困りの方が居られましたら
この手法によるタッチの改良を試してみては如何でしょうか。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
渡辺ピアノ調律事務所
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